「丁寧に作ろう」といくら念じても丁寧には作れないのは、建築に限らず創作活動の常です。
ですから、模型を丁寧に作るためには「丁寧に作ろう!」とがんばって意識しながら作るのは、全く効果的ではありません。
重要なのは、特に意識しなくても勝手に丁寧に仕上るための工夫を積み重ねることであり、正しい道具の使い方や性質を学ぶのはその第一歩です。
というわけでこの記事は、模型作りの要であるカッターナイフの扱い方のまとめです。
(カッター以外に関してはまたいつかかけたらいいな。)
道具紹介
はじめに、建築学科で使われる定番のカッターナイフと、その関連商品を概説します。
カッター本体
建築学科ではミリ単位の細かい切断作業が非常に多いため、一般のカッターよりも薄く、細く、尖ったカッターが愛用されています。
そのため、建築学科では、特に上記の二種が愛用されています。
スラリとした細身のデザイン、質実剛健なステンレスのボディ、そして刃の向きを変えて装填するだけで左利きにも対応する機能性。
この2種が愛用される理由はたくさんありますが、やはり最大の理由としては細かい作業に適した「30°の黒刃」の刃が装填できる点です。
カッターの刃
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カッターの刃にも種類があります。
カッターの刃は、おおきく下記の3つの点で分類できます。
- 規格:S刃(厚み0.38mm 幅9mm)、M厚刃(厚み0.45mm 幅12.5mm)、L刃(厚み0.5mm 幅18mm)
- 先端角:30°と60°
- 色:黒刃と白刃
まず刃厚と刃幅と先端角については、いずれも「薄く、細く、尖っている」ものほど、細かい作業に向いており、「厚く、太く、鈍角」なほど、大きく分厚いものを着るのに向いています。
一般家庭では、カッターナイフといえば通販で届いたダンボールを開封したり、A4用紙を適宜カットしたりするのに使うことから、M厚刃で60°くらいのものがもっとも流通しています。
が、細かい作業の多い模型製作では、S刃サイズで30°角の刃が採用されています。
(当然大きい刃ほど価格は高価になります。また刃先の角度については、30°のもののほうが倍ほど高価です。)
また、黒刃と白刃についても解説します。
意外と知られていませんが、実はこの2つの刃は、使われているステンレス素材自体は全く同じものです。
(そのため両者の値段はほぼ同じです)
2つの大きな違いは、黒刃は白刃より鋭く研がれており、より切っ先が鋭くできているという点にあります。
これによって黒刃カッターは、切り始めの切れ味が白刃と比べて非常に良く、細かい作業をしても切り口がボロボロになりにくいという利点があります。
反面耐久性が低いことから刃毀れしやすいという特性を持っています。
そのため黒刃は、カッターの中でも特に頻繁に刃先を折ることを前提に作られています。
以上の点から、建築学科では、「S刃サイズ、30°の黒刃」がもっともよく使われています。
カッターマット
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カッターマットは単なる机を傷つけないためのカバーではありません。
きちんとしたカッターマットはやや高価ですが、その値段に見合う理由があるのです。
カッターマットが必要な第一の理由はカッター自身やあなたの手を守るためである。
良質なカッターマットはカッターの刃先の滑りを良くするため、カッターの消耗を低減させるとともに、手首や指先にかかる負担が最小限になります。
なにより、力まずに切断できるということは、勢い余って手指を切断してしまう事故を未然に防げるという点に置いて、非常に重要なポイントです。
また、スムーズに切れるということは当然切られる模型材料側への負荷も軽く出来るということでもあります。
カッターマット第二の目的は、切断面に余計な力がかからずなめらかで美しい小口になる点が挙げられる点にあるといえるでしょう。
そして何より、傷だらけの板の上でカッターを引いてまっすぐに切れるわけがない。という問題があります。
よく古雑誌や製図台、ベニヤ板などの上でカッターを使う人がいますが、こういった材料ではカッターマット代わりにしている土台が数回の利用でぼろぼろになり、表面に凹凸ができてしまいます。
凹凸だらけな土台の上でカッターを使うと、その凹凸がレールの役割を果たし、カッターがあらぬ方に走ってしまうため、正確に切ることが困難になってしまいます。
塩化ビニル製のカッターマットならほとんど表面に傷が出来ないため、集中力を失わず作業を続けることが出来るのです。
これが良質なカッターマットが必須な最後の理由です。
ステンレス定規
定規も小学校の頃のプラスチック製やアルミ製では、建築学科では不十分です。
というのもこれら定規は目盛りの間隔が正確でなかったり、強度が低く定規自体がカッターによって削れてしまったりするからです。
模型作りでは主にシンワ測定やコクヨのステンレス直定規が使われています。
ステンレス定規には15cm、30cm、60cm、1mの4つがあり、切り出す材料の大きさに合わせて定規を使い分けるのが一般的です。
最初は提出する模型サイズも小さいので、15cmの定規と30cmの定規があれば十分かもしれません。
が、上回生に進むに連れて大きな定規も必要になってくるでしょう。
(場合によっては卒業設計やゼミなどを通じて先輩からもらえるかもしれません。)
制作上のコツ
道具の概要を理解できたところで、次はカッターでものを切るときの注意点を紹介します。
カッターの刃は毎日折る
美しい模型を作る上でもっとも重要なことは、とにかく頻繁に刃を折ることだといっても過言ではないでしょう。
具体的には、二、三度材料を切っては折る、二、三度切っては折る、くらいの頻度で刃先を交換してもいいくらいの頻度で消費してください。
建築学科に入学するまでは、カッターの刃を折ることはちょっとしたイベントだったかもしれません。
しかし建築学科では、カッターの刃を折るというのは鉛筆を削るよりも当たり前な日常生活の一部である。
例えば、黒刃には業務用の100枚入りのものが販売されていますが、これを4年で使い切るのではおそすぎるくらいだと考えてください。
カッターの刃はあまりゆっくり使っているとケ、ース内に入っている保護紙がぼろぼろになり未使用の刃の切れ味すら落ちてくるため、開封後何年も放置するものではないのです。
視線・姿勢・切断方向は一直線に
無理な体制でカッターを扱うと、切り口の断面が歪んだり、採寸が歪んだり、場合によっては怪我や腰痛の原因となります。
体、視線、カッターマット、切断方向、カッターの刃はすべて一直線上にのることを意識するして、材料を切ることを心がけましょう。
背筋を伸ばして頭と机は適度に離す。
体に対してカッターを手前に垂直に引いて切る。
けして横方向に切ったり、体をねじって切ったりしない。
どれもこれも一見簡単そうですが、作業に熱中していると次第に難しくなってくるポイントです。
材料を一度に切ろうとしない
スチレンボードは、ポリスチレンを上質紙で挟み込んだ積層構造の材料です。
こういった異なる材料を張り合わせた材料というのは、材料ごとに切る力加減が異なることから、何回かに分けて切断するのが一般的です。
(表面にダンボールや布を貼り付けた木材をのこぎりで切ったらどうなるか想像してみましょう。異なる素材を張り合わせた材料を一度に切ることの強引さがわかるのでは無いでしょうか?)
スチレンボードに限らず、模型材料は最低でも3回に分けて切ります。
- 一番上の上質紙のみを切る。(イメージとしては、トマトを着るときにまず表面の皮だけに切込みを入れるような感じ)
- 次に中のポリスチレン部分のみ切る。(5mm以上のボードを切る場合、この工程をさらに2回に分ける。)
- 最後に裏面の上質紙を切る。
よく「作業中手が痛くなる」という人は、大抵の場合一度で材料を切ろうと、手に力を込めすぎていることが原因です。
定規を当ててるのに断面が歪む理由
刃物というものは切断中に刃先がぐらつくと極端に切れ味が落ちます。
カッターを持つ手は材料から浮かさず、手の側面を机に付けて、ふらつかないように切りましょう
刃を出し過ぎないことも重要です。
正しい持ち方をしていても、一センチ以上刃を出すと刃先がふらついてまともに切れなくなります。
中には3センチ以上刃先を出して使っている人もいますが、材料を切り出しているのは切っ先の数ミリなのでほとんど意味がありません。
持ち物には名前を書く
小学生相手のようなアドバイスですが、非常に重要です。
というのも建築学科の模型道具は、皆が同じものを持っているので紛失、取り違え、盗難が起こりやすいためです。
製図室では、ちょっとだけカッターやのりを貸したり借りたりすることも多いため、名前を書いていないと本当に行方不明になりがちなのです。
(特に卒業設計のお手伝いや模型製作のバイト先など、自分の模型道具をもって誰かの模型を手伝うときは要注意です。)
ちなみに定規やスコヤといった精密さが重要な器具については、マスキングテープや名前シールを貼ると、シールの僅かな段差が模型製作の邪魔になるため、あまりおすすめできません。
カッターで怪我をしないためにできること
黒刃カッターは一般のカッターに比べて切れ味が鋭く、実際何針も縫うような怪我をしてしまう友人が年に一回程度の割合で現れるような状況でした。
カッターの刃で怪我をしないために、普段から注意しておくべき点を紹介します。
カッターの刃は出しっぱなしにしない
筆者は、「カッターの刃を出していいのは、利き手に持っている時だけ」という習慣を意識していました。
言い換えれば、カッター刃が鞘におさまっていない状態では、一瞬たりとも卓上に置かないということです。
理由は単純で、刃を出しっぱなしにしたまま机の上に放置し、はずみで足の上に落とした友人がいるからです。
その時彼は分厚い革靴を履いていたため事なきを得ましたが、あれがサンダルだったらと思うとゾッとします。
また、製図室の作業場所は得てして材料や道具や資料が積み重なり、ごちゃごちゃになりがちなものです。
カッターの刃を出しっぱなしにしておき、その上にものが積み重なるようなシチュエーションを想像すると、身の毛もよだつ思いがします。
というわけで、「カッターの刃を出しっぱなしにしない」という点は、ぜひ多くの建築学生に徹底してほしい習慣だと思っています。
折れた刃はすぐに「刃入れ」に入れる
また、「折ったカッターの刃」の扱いについても、意識の低い学生がたくさんいます。
具体的には、
- 製図台の上に置きっぱなし
- 床に落として放置
- そのへんの端材にまち針のように突き刺す
- 蓋のついていない空き容器(弁当の殻・紙コップ)の中に捨てている
などがその代表です。
特に「諸々のゴミの中に刃が混じっている」状況は、掃除の際に手を怪我する原因となるため、非常に危険と言えるでしょう。
実際、そのまま机の上に放置しておいたがために、スチレンボードの端材と一緒に気付かずに手で集め、指を切った友人がいます。
定規を押さえる手の親指に気をつける
また、作業中に発生する怪我としてもっとも多いのが、この「定規を抑えている手」の怪我です。
これは普段から料理をする方であればすぐに理解してくださる点だと思いますが、包丁で手を切る時というのは大抵の場合「食材を抑えている手」を、勢いで切ってしまうケースだと思います。
カッターも同様で、
- 切り出す材料の寸法はあっているのか?
- 切り出す線は歪んでいないか?
- 間違った材料を切っていないか?
- この後どんな段取りで作業を進めようか?
といったことに気を配りながらカッターを使っていると、うっかり定規を抑えている親指が、切断するルートにはみ出てしまいがちになります。