建築学科ごっことは?

建築家約1000人の経歴を調べてわかった 建築学科の強い大学ランキング一覧

建築学生向けのブログを書いていると、下記のように進路や大学選びに関する質問や相談を受けることがしばしある。

筆者は大学の就職課のスタッフでもなければ大手ゼネコンの人事部でもない。
よってこうした質問に具体的な解答を出せないでいた。

しかしそんな折、大学ごとの業界への影響力を測定する方法を思いついた。
有名建築雑誌などの設計者経歴欄から、最終学歴と入社企業の統計を取るという手法だ。
もしあるメディアで特定の大学出身者が偏って多く存在すれば、それは各建築学科が業界に与える影響力を測る一つの指標となりうると考えたからである。

無論「建築雑誌に載っている大学=いい大学」ではない。
が、
「業界に影響力のある設計者」を多く排出している建築学科
という観点でのみ見れば、悪くはない調査手法と言えるだろう。
(そういう意味での「いい大学・美味しい大学」というものは、良識ある大人は広言しないだけで確かに存在する)

そこでこの記事では簡易版の調査として、新建築2019年1月号から2020年11月号までの23冊に掲載された、計919人の経歴を集計し、有名建築家になったり大手建築企業へ就職するのに本当に有利な建築学科をランキング化することを試みた。

結果を先に紹介しておくと、下記の表のとおりである。

ランク大学名
SSS早稲田大学
SS東京大学・東京工業大学
S日本大学・京都大学
AAA横浜国立大学・東京芸術大学・神戸大学
AA明治大学・千葉大学・東北大学・東京都市大学
芝浦工業大学・東京理科大学・京都工芸繊維大学
A工学院大学・武蔵野美術大学・九州大学・大阪大学
B北海道大学・法政大学・多摩美術大学・名古屋工業大学
広島大学・大阪芸術大学・立命館大学
雑誌『新建築』に見る、建築学科が強いおすすめの大学一覧
注意
今回の集計では、各学科ごとの在籍者数や規模で重み付けをしておりません。
記事公開後、この点に関する指摘が多数寄せられましたので、近日中にウェイトバック集計し直したデータ(各学科の卒業生が全部同じと仮定した場合のランキング)を公開したいと考えております。
現時点のデータは参考値として御覧ください。

繰り返すが、雑誌に掲載されることだけが建築家としての評価を決めるわけではない。
また、雑誌に載っているからと言ってそれが万人にとってすばらしい建築なわけでもない。
何より、名門大学・大手企業・有名建築家だけがあなたの幸せなわけではない。

しかしその一方で、そうした生々しくバカバカしい業界の不愉快な部分を受験生に見せることなく
「いい大学に行くだけが人生じゃないよ」
「大企業だけが就職先じゃないよ」
「建築雑誌に載るだけが、建築家のゴールじゃないよ」
という綺麗事で糊塗するのは、明らかな欺瞞だとも思う。

仮に「世間体や他人の押しつけではない、あなたの本当に実現したい夢・理想・キャリア」というものが存在したとしよう。
それでも、業界外からは見えにくい「大学と企業のつながり」というモノが明白に存在しているということを把握した上で大学を選ぶのと、その存在すら知ることなく進路を選ぶのでは、入学後の振る舞いも全く変わったものになるはずなのだから。

とはいえ、この調査自体に嫌悪感を覚えたあなたの感性は、多分正しい。

「建築学科ごっこは学歴主義者の執筆しているブログだ!」
という誹りも、ここでは甘んじよう。
(学歴主義なのは筆者ではなくこの業界全体なのだが、、、)

我ながら品性も品格もない調査であると自覚しているので、その点は先にお詫びしておきたい。

新建築とは?

『新建築』は、1925年に創刊された、日本を代表する建築専門誌である。

1925年8月創刊。
日本を代表する建築専門誌。

創刊以来、日本の現代建築をクオリティの高い写真、図面等により詳細に紹介し、多くの建築家に支持されてきました。
その継続により、独自の視点をつくり出し、建築思潮や建築デザイン界の新しい動きを発信し続けています。

近年、建築家の活動は、都市、環境など幅が広がり、ものづくりを通し現代を切り開き、社会へ貢献しています。
それらを吟味し、新建築社写真部により撮影、掲載することで、建築が生み出し得る可能性を伝え続けていきます。

公式HPより

いわゆる「業界人なら誰でも知っている雑誌」であり、ここに掲載されることが設計者としての一つのステータスとしてみなされる(こともある)由緒正しい雑誌である。
また好都合なことに、巻末には掲載された設計者の略歴がほぼすべて記載されている。
今回の調査には最適な雑誌と言えるだろう。

この記事では、新建築2019年1月号から2020年11月号までに掲載された設計者918人の経歴をもとに、調査・分析を行うこととする。

新建築掲載設計者出身校ランキング

さっそく結論から見てみよう。
過去2年間の新建築に掲載された設計者の卒業大学掲載数ランキングは以下の通りである。

順位出身大学(大学院含む)掲載数
1位早稲田大学92人
2位東京大学64人
3位東京工業大学55人
4位日本大学41人
5位京都大学40人
7位横浜国立大学35人
7位東京藝術大学34人
8位神戸大学33人
9位明治大学24人
10位東京都市大学・千葉大学・芝浦工業大学各23人
11位東北大学・東京理科大学・京都工芸繊維大学各22人
12位工学院大学17人
13位武蔵野美術大学16人
14位九州大学(九州芸術大学含む)15人
15位大阪大学14人
16位北海道大学・法政大学各13人
17位多摩美術大学12人
18位名古屋工業大学11人
19位東京都立大学10人
20位広島大学・熊本大学各9人
『新建築』掲載設計者 出身校ランキング 2019-2020
『新建築』掲載設計者 出身校ランキング(大学院含む)

表を見てまずわかるのは、設計者出身大学の圧倒的な偏りである。

例えば1位の早稲田大学出身者の掲載人数は92人であるが、これは2位の東京大学64人を大きく引き離す数値であり、かつ集計した作家人数919人の約1割に相当する人数である。
新建築には毎月50人程度の設計者が掲載されているので、単純計算すると毎月5人程度は早稲田大学出身者が記載されていることになる。

本記事の冒頭で「早稲田大学横浜国立大学のどちらがおすすめ?」という匿名質問があったことを紹介した。
もしあなたが「建築雑誌やメディアに取り上げられるような作品を作る建築家」になりたいのであれば、迷わず早稲田大学に進学すべきだろう。
筆者も集計中は「早稲田大学やっぱり強いなー」とのんきに入力していたが、まさかここまで圧倒的な差を見せつけられるとは想像だにしていなかった。

また、早稲田に続く東京大学・東京工業大学・日本大学・京都大学を含めた上位5位校出身者292人だけで全体の30%を占めている点や、上位12校までの487人が、全体の50%を構成していることも、ここでは意識しておく必要があるだろう。

要するに。
日本には100以上の建築学科が存在しているが、新建築に掲載されている設計者の半数は、常連ともいうべき10校程度の卒業生によって構成されているのである。

まとめ
新建築に掲載される設計者は、
・早稲田大学
・東京大学
・東京工業大学
・日本大学
・京都大学
の5校出身者が1/3を占めている。

新建築から読み解く、建築家キャリアプランのQ&A

以上の集計により、ひとまず建築学科を志望する高校生からの
「どの大学の建築学科がおすすめですか?」
という質問には、一つの解答を示せたように思う。
(SNSで人気のキラキラハイパーインフルエンサー設計者になりたい?死ぬ気で勉強して早稲田大学に入れ)

しかし本項では、より詳細な分析を試みたい。
というのも今回の調査は、建築学科を志望する高校生や、進路を決定しなければならない3年生の学生が抱えがちな以下のような質問にも、非常に明白な解答を示すものとなったからである。

  • Q1:やっぱり建築学科って、大学院に行ったほうがいいの?
  • Q2:学部卒でも就職に有利な大学は?
  • Q3:大手ゼネコン・大規模設計事務所への入社に強い大学は?
  • Q4:やっぱりエリート大学出身者なほど、大企業への就職に有利なの?
  • Q5:結局、就職に強い建築学科の法則・共通点はないの?

以下、集計したデータをもとに、こうした疑問点にも答えていこう。

Q1:やっぱり建築学科って、大学院に行ったほうがいいの?

学部卒で就職するか、それとも大学院に進学するのか。
この問いは、多くの3年生が悩む問題であろう。
学費の問題や就職したい企業の種類によっても答えの変わる難しい問題である。

だが、もしあなたが「新建築に作品が掲載されるような建築家」を目指すなら、迷わず大学院に進むべきだ。
なぜなら新建築に作品を載せる設計士のうち、学部卒の設計者は全体の35%であるのに対して、修士卒の設計者は60%にあたる549人と、圧倒的な差異が存在するからである。

最終学歴掲載人数
学部卒(短大など含む)327人(35%)
修士卒549人(60%)
博士卒26人(3%)
不明・記入なし16人
合計919人
『新建築』掲載設計者 最終学歴内訳 2019-2020

この数値を見れば、多くの建築学生が院卒での就職を目指すのも納得であろう。
(それは業界全体の育成コストが高いという意味なので,個人的にはあまり良い状態ではないと考えているが、それはまた別の話である。)

それでは、目指すべき大学院はどの大学の大学院なのだろうか?
これについては、前述の表に名前の上がっている大学の大学院に進めば特に問題ない。
なぜなら下記の表の通り、大学院卒業者の経歴のみに対象を絞ってランキングを集計し直しても、順位に大きな変動が生じないからである。

順位出身大学院名掲載数
1位早稲田大学66人
2位東京工業大学・東京大学各43人
3位神戸大学31人
4位横浜国立大学30人
5位東京藝術大学29人
6位京都大学27人
7位日本大学22人
8位明治大学20人
9位東北大学・千葉大学各15人
10位東京理科大学14人
『新建築』掲載設計者 出身大学院ランキング 2019-2020

一見すると多少の順位変動があるように見えるが、よくよく読み解いてみるとさほど順位の入れ替わりは生じていないことがわかるだろう。

まず1位は変わらず早稲田大学大学院である。
また、続く2校に東京大学・東京工業大学が連なる点も、ほぼ不変と言っていいだろう。
大学院のみに焦点を絞ったところで、トップ3校は依然トップ3である。

続く4位からは神戸大学・横浜国立大学・東京藝術大学のランクアップと日本大学・京都大学のランクダウンという順位変動が見られるが、ランキング圏外に脱落するような大きな変動は見られない。
そして明治大学・千葉大学・東北大学・東京理科大学の4校も、9-10位圏を現状維持している。

おそらく集計母数を増やすことで変動するような、誤差程度の順位変動といえる。

しいて言えば、4位→7位と順位を大きく落とした日本大学と、10・11位圏から15・16位圏にダウンした京都工芸繊維大学・東京都市大学・芝浦工業大学の4校は、大学院からの入学にあまり旨味のない大学と言えるかもしれない。
順位下落の理由として考えられるのは、これら4大学は後述の通り学部卒の掲載率が非常に高く、大学院卒のみに対象を絞って集計すると相対的に順位が下がるためであろう。

まとめ
メディアに掲載されるような作品を手がけるポジションにつくためには、やはり学部卒より大学院卒の方が有利。

Q2:学部卒でも就職に有利な大学は?

前項で紹介した通り、基本的に建築業界では大学院へ進学した方が有利なポジションにつけることが多い。
とはいえすべての学生が大学院に進学できるわけではないのが現実である。
生活費用や学費の都合により、学部卒での就職が決定事項である高校生もたくさんいることだろう。

では、学部卒でも就職に有利な大学はどこなのだろうか?
それを明らかにするために、今度は学部卒の設計者のみを対象として集計し直した。
それが下記の表である。

順位大学名掲載数
1位早稲田大学22
2位日本大学19
3位東京大学14
4位武蔵野美術大学13
5位京都大学・東京都市大学11
6位芝浦工業大学・京都工芸繊維大学10
7位東京理科大学・工学院大学・千葉大学・大阪芸術大学8
8位東京工業大学・多摩美術大学7
9位東北大学・北海道大学・広島大学6
10位東京藝術大学・横浜国立大学・法政大学
立命館大学・名古屋工業大学
5
『新建築』掲載設計者 出身学部ランキング 2019-2020

とりあえず、早稲田大学は不動の1位である。
この22人という数値は、日本大学や明治大学の大学院出身者数に並ぶ人数だ。
前項にて「大学院に進んだほうが建築業界では有利」という話をしたところであるが、早稲田大学に限って言えば学部卒でも、他大学の大学院出身者並みの待遇が用意されていると言っても過言ではないだろう。

続く2位は日本大学の19人である。
日本大学は学部卒の学生の割合が非常に高く、1位の早稲田大学と比較しても遜色ない掲載人数であるのは驚くべき結果である。

また、武蔵野美術大学の13人という数値も目を引く数値だ。
武蔵野美術大学は大学院まで含めたランキングでは18位であったが、学部のみでのランキングでは京大すら下して堂々の4位に収まっている。
また同じ芸大では、大阪藝術大学の8位ランクインも、目を引く上昇である。

芸大美大の学部卒で建築業界に進む場合、東京藝術大学や多摩美術大学でなくあえて武蔵野美術大学や大阪芸大を選ぶという選択肢もありうる数値と言えるだろう。

そのほか,京都工芸繊維大学・東京都市大学・芝浦工業大学・工学院大学の4校も、大学院卒の掲載舎数より学部卒の掲載者数での集計の方がランキング順位が高い。
(特に京都工芸繊維大学については、後述するとおり「学部から大手企業への就職」に、謎の強みを発揮している。)
大学院に行く予定のない学生であれば、この4校も充分志望校として検討に値するのではないだろうか?

逆に神戸大学・横浜国立大学・東京工業大学、その知名度の割に学部卒の掲載数が奮っていない。
いずれも入学難易度の高い大学であるため、これら3校に通っている学生は大学院まで進学を前提として進路設計をした方が良いかもしれない。

ただし学部卒な掲載者数の集計は、集計の母数が少ない上に上位陣と下位陣の数にそこまで大きな差が開いていない点に留意が必要である。
各大学の人数がいずれも僅差であるため、追加調査次第では容易にランキングがひっくり返る可能性も高い点を強調しておく。

まとめ
学部卒からの就職にも(相対的に)強いのは
・日本大学
・京都工芸繊維大学
・東京都市大学
・芝浦工業大学
・工学院大学
・武蔵野芸術大学
・大阪芸術大学
などの建築学科か。

Q3:大手ゼネコン・大規模設計事務所への入社に強い大学は?

新建築には、大手ゼネコンや大規模組織設計事務所が指揮をとったスケールの大きい開発事業から、アトリエ設計事務所や工務店が手掛けた小規模な物件まで幅広く載っている。
ここまではそれらを手掛けた建築家のキャリアを同じ土台に上げて比較してきたが、これらの集計は少し乱暴だったかもしれない。

そこで今度は、大手ゼネコンや組織設計事務所からキャリアをスタートした設計者のみに注目し、再度出身大学を集計してみよう。
対象となるのは、スーパーゼネコンと呼ばれる

  • 竹中工務店 (60人)
  • 大林組   (30人)
  • 清水建設  (29人)
  • 鹿島建設  (23人)
  • 大成建設  (18人)

の5社出身者(160人)に加え、組織設計事務所のうち特に集計数の多かった

  • 日建設計   (57人)
  • 佐藤総合計画 (18人)
  • 日本設計   (17人)
  • 戸田建設   (14人)
  • 山下設計   (12人)
  • 久米設計   (12人)

の上位6社出身者(118人)の、計278人である。
(集計は新卒時に入社した会社を基準としている。たとえば竹中工務店に入社し、その後日建設計に転職して新建築に掲載された設計者がいた場合、竹中工務店の人数としてのみカウントしている。)

要するに、これによって
「メディアに載るような建築を、スーパーゼネコンや大手組織設計などの大企業で設計したいなら、どんな大学を出るのが近道なのか?」
というランキングを明らかにすることを試みる。

結果は以下の通りであった。
(学部卒の割合が少ないため、ここでは学部卒・院卒両方の数字をまとめて一つの表として集計する。)

順位出身大学掲載人数(学部卒のみ)
1位早稲田大学60人12人
2位東京工業大学32人4人
3位京都大学31人5人
4位神戸大学24人0人
4位日本大学24人9人
5位東京大学22人3人
6位東北大学17人0人
6位京都工芸繊維大学17人11人
7位東京理科大学14人5人
8位名古屋工業大学13人6人
8位千葉大学13人4人
9位大阪大学120人
10位東京藝術大学11人2人
『新建築』掲載 大手企業設計者 出身大学ランキング  2019-2020

基本的にこれまで語ってきた内容とそれほど大きく差が生じるわけではない。
相変わらず早稲田大学がトップであり、そこに東京工業大学・京都大学・日本大学・神戸大学・東京大学が続くという構成も、すでにおなじみの内容であろう。
7位と8位の東京理科大学・千葉大学も引き続き肩を並べている。。
(東京大学が5位と、上位校の中で大手への就職に遅れをとっているのは、やや意外の感がある。)

そんな中でも特筆すべき点としては、まず6位の京都工芸繊維大学が挙げられるだろう。
というのも、通常どの大学も大学院卒のほうが学部卒より就職に有利な傾向にあるが、京都工芸繊維大学の掲載数はなぜか学部卒11人>大学院卒6人と、その優劣が逆転しているからだ。
これは京都工芸繊維大学のカリキュラムの問題なのか、それともOBOGに特殊な繋がりがあるためなのか、詳細は不明であるが非常に興味深い点である。

また、神戸大学・東北大学・大阪大学・名古屋工業大学の4校は、全体での集計時に比べて順位が大きく伸びており、卒業生に占める大手企業就職者の割合が多いことが伺える。
これは、大手企業の方が全国に支社があり、地方の大都市での新卒需要が高いことが原因と考えられる。

一方で、横浜国立大学の順位が、集計を大企業出身者に限定したとたんそれぞれ6位→15位と圏外まで急激にランクダウンする点も興味深い。
妹島和世、西沢立衛、乾久美子が教鞭をとる横浜国立大学の出身者は、アトリエ設計事務所志望が多いということなのだろうか?
同様に東京藝術大学も、7位→10位と大手への就職に若干の陰りを見せている。

なお余談であるが、集計した919人のうち、博士後期課程卒で大企業に入社した設計者は2人のみであり、その両方ともが京都大学大学院卒であった。
基本的に、大手建設企業の設計職を志望するならば、博士後期課程という学歴はむしろ不利に働くと考えて良いかもしれない。

まとめ
大企業の設計職を目指すなら、上位5大学に加え
・京都工芸繊維大学
・千葉大学
・東京理科大学
なども候補となる。

・神戸大学
・東北大学
・大阪大学
・名古屋工業大学
など、地方の大都市圏にある大学も、支店入社という形で狙い目か。

Q4:やっぱりエリート大学出身者ほど、大企業への就職に有利なの?

ここまで紹介した通り、建築業界においては出身大学と入社企業、そしてメディア露出の間には強い関係性がある。
しかし不幸中の幸いとも言えるのは、必ずしも偏差値が70近い超難関大学や,学費の高額な私立大学にのみ道が開かれているわけではないという点であろう。
(慶應義塾大学が全くランクインしていないことからも,進学先の広さは必ずしも偏差値順決まるわけではないことが伺える)

偏差値60未満でありながら、本調査のランキングの上位に複数回名前を連ねた大学としては、以下の大学が挙げられるだろう。

芝浦工業大学 偏差値 55.0~60.0
工学院大学 偏差値 55.0~57.5
名古屋工業大学 偏差値 47.5~60.0
日本大学 偏差値 45.0~57.5

特に日本大学は、偏差値的にも超難関校というわけでは内にも関わらず、(早稲田大学には及ばないまでも)東京大学や京都大学と肩を並べて日本の建築業界を支える人材を生み出している点に注目したい。

以上を踏まえれば、日本大学が建築業界においてのいわゆる「穴場大学・お買い得大学」にあたるのだろう。

無論ここまで紹介してきた通り、偏差値65〜70圏の早稲田・東大・京大・東工大が圧倒的な数字を叩き出しているのも事実である。
しかしここでは、偏差値50代でありながらエリート大学と十分に渡り歩いている大学が存在している点を、今一度強調しておきたい。

まとめ
建築業界にも学閥(的なもの)はあるが、必ずしも超難関校出身者にしか道が開かれていないわけではない。

Q5:結局、就職に強い建築学科の法則・共通点はないの?

こうした大学ごとの掲載数の偏重はなぜ生まれるのだろうか?

一番シンプルな仮説としては、
「新建築という雑誌がものすごい学歴主義だから」
という仮説であろう。

しかし、いくらなんでも新建築社の編集者が,掲載物件を設計者の学歴で選んでいるとは考えにくい。
むしろこれらは出身校による偏りは、建築業界の学歴主義を、「新建築という鏡」が映し出した結果に過ぎないと考えるほうが自然であろう。

例えば下記の記事でも書いたことであるが、
建築学生のアルバイトでおなじみ「大手ゼネコンでの模型製作」は、特定の大学のOB・OG関係からでしか求人が回ってこない。

未経験の建築学生が設計事務所の模型バイト・インターンに参加し、就職する方法

あるいは、毎年12月ごろになると各大企業の方から特定の大学にむけて「説明会・懇談会」(という名の書類選考が免除された面接)が行われているのも、有名な話である。
多くの建築学生が必死に履歴書を作成している3月の時点で、すでに採用枠の幾分はこうした「大学と企業のコネクション」によって席が埋まっているのである。

建築学科の学生がなるべくリクルート等を使わずに就活する方法

いや、もっと直截かつ明白な事例としては、鹿島建設の意匠・設備設計者は、指定校の卒業生しか応募することができない。

日本の意匠設計は万事この調子である。

日本の建築業界には出身大学と企業との間に暗黙の関係性見えないつながりが広く存在している。
それは一般に「文化」とか「価値観」とか「人脈」と呼ばれるネットワークであるが、建築業界(とくに設計分野)においてはこのネットワークの土台となるのが「出身大学」なのである。
これが業界の現状なのだから、むしろ、掲載された設計者の学歴に偏りが生じないほうがおかしいと言っても過言ではないだろう。

いずれにせよ、建築業界が全く純粋な実力主義のみで構成されていると判断するのはあまりにお花畑すぎると言わざるを得ない。
そしてこうした事実を知らせずに、「大企業・名門大学だけが建築業界じゃない」という美辞麗句のもと、受験生に志望校を選ばせるのは、やはりあまりに不誠実であろう。

では仮に大学ごとに就職への有利不利が存在するとして、ここで重要となってくるのは、そうした「強い大学」には、何かしらの共通点や特徴があるのか?という点であろう。
もし各建築学科の優劣を、入学するまでに一切判別することができないのだとすれば、大学受験はあまりに部の悪いギャンブルだ。
ここは是非とも入学前に、各大学の業界影響力を測定する客観的な方法や基準を見つけておきたいものである。

この件に関しては、筆者なりの仮説を別記事にて掲載している。
興味のある方はぜひ一度目を通していただければ幸いである。

就職に強い建築学科のある大学の共通点

まとめ

最後に、もう一度新建築に掲載された設計者の出身大学の比率を棒グラフで見てみよう。

『新建築』掲載設計者 出身校ランキング(大学院含む)

このように可視化してみると、大学ごとの掲載数はなだらかなカーブを描いてグラデーション状に減少しているわけではなく、下記図中で色分けするようないくつかの「まとまり」が存在していることに気がつくだろう。

『新建築』掲載設計者 出身校ランキング(大学院含む) 色分け

このまとまりをによって各大学の建築学科を分類すると、記事冒頭で示した表の通りとなるだろう。
身も蓋もない言い方をすれば、「建築学科の格付け」である。

ランク大学名
SSS早稲田大学
SS東京大学・東京工業大学
S日本大学・京都大学
AAA横浜国立大学・東京芸術大学・神戸大学
AA明治大学・千葉大学・東北大学・東京都市大学
芝浦工業大学・東京理科大学・京都工芸繊維大学
A工学院大学・武蔵野美術大学・九州大学・大阪大学
B北海道大学・法政大学・多摩美術大学・名古屋工業大学
広島大学・大阪芸術大学・立命館大学
雑誌『新建築』に見る、建築学科が強いおすすめの大学一覧


もちろんここに記した大学への入学が、かならずしもあなたの幸福を約束してくれるわけではない。
大学選びには、各大学との「相性」や「向き不向き」や「他にはない強み」といった要素も絡んでくるからである。

そうしたポイントについては、下記の記事なども参考に、多角的な視点で志望校を選んでほしい。

偏差値・ランキング・評判に振り回されない、最強の建築学科の選び方・調べ方

本記事が、あなたのキャリア選択の参考になれば幸いである。

備考:調査手法

  • 今回の調査では、新建築2019年1月号から2020年11月号までの2年間で取り上げられた、のべ1108人(重複を除外して919人)を集計した。
    (座談会や論文記事、Exhibition・books・月評欄といった記事における執筆者・対談者のプロフィールは、集計対象から除外)
  • 集計では「掲載号・氏名(かな)・生まれ年・最終学歴・入社企業」の5項目を集計し、結果の報告(本記事)では最終学歴と入社企業の集計結果のみを公表する。
  • ここでいう「最終学歴」とは、社会人として初めて入社する直前に所属していた教育機関を指す。たとえば一度企業に入社した後に修士・博士課程を修了したものは対象とせず、入社前の学歴を最終学歴として集計した。
  • 最終学歴が短大・専門学校などの者も「学部卒」とみなして集計した。ただし中途退学は学歴としてカウントしていない。
  • 一つの大学に複数の建築系学科・デザイン系学科が存在する場合や、農学部や法学部などデザイン・建築と遠い学部からの出身者である場合も、すべて同一の大学名で集計した。(この点は、今後集計の機会があれば改善したい)
  • 複数大学を卒業したものについてはその最後の卒業歴のみ集計した。(短期の留学経験は除外)
  • 卒業後どの企業にも所属せず独立したものは、進路を「独立」とした。ただし一部設計者は卒業後の所属企業を省略して記入する例もあり、集計には若干の誤差も含まれることに留意が必要である。
  • 国外の大学・企業への所属も集計対象としているが、海外出身作家の経歴は集計していない。(これは本調査が、国内の高校生の進路決定を意識して行ったものであるためである。)

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