かつて僕が建築学科に入学して驚いたことの一つが、
「先輩方がみな、当たり前のようにリアルな建築CGを作っている」
ことでした。
それまでマンションの広告チラシくらいでしか見たことのない建築パース。
正直なところ、美大や専門学校で徹底的に3DCGの技術を学ばないと習得できないのだろうくらいに考えてたあのリアルなパースを、普通の建築学生でも、少しの訓練で作れるということは、数ヶ月前まで高校生であった自分にはとても衝撃だったことを、今でもよく覚えています。
では、そうしたリアルな建築CGを学生が作成するためには、具体的にどのようなソフトが必要で、どのようなスキルを学ぶ必要があるのでしょうか?
こうした情報については、教えてくれる教授もいなければ、右も左もわからない学生向けに解説した書籍も乏しく、右往左往したことをよく覚えています。
そこでこの記事では、
- モデリングって何?
- レンダリングって何?
- ポストプロダクションって何?
という次元で何もわからないという方を対象に、リアルな建築CGを作るための手順と、そのために必要なソフト・スキルをまとめました。
建築パースの基本的な作成手順
はじめに、写実的な建築CGを作るための一連の流れを把握しておきましょう。
建築パースの作成は通常、以下の4STEPで行われます。
- 設計作業
- モデリング
- レンダリング
- ポストプロダクション(レタッチ)
1.設計作業
これは解説するまでもなかと思いますが、与えられた敷地や条件に応じた建物を設計することです。
コンピューターが一般化する以前は、紙とペンによる製図、手描きの建築パース、そして模型による表現だけが、建築を提案するための武器でした。
2.モデリング
建築のモデリングとは、設計した建築物をデジタル上の3Dデータとして立ち上げる作業です。
いわゆる「コンピューターグラフィックス」ときいた時、多くの人がイメージするのがこの作業かもしれません。
粘土をこねるように、あるいは積み木を積み上げるようにして、PC内にこれから作る建築の造形・形態・意匠を再現する工程です。
建築でよく使われるモデリングソフト(3DCAD・BIM)については、下記記事にて紹介しております。
また、各ソフトの学習の手引きとして、下記のような記事も用意しています。
3.レンダリング
モデリングソフトで設計したデータを印刷したり、プレゼンボードやポートフォリオに貼り付けるためには、3Dのモデルデータを画像化する必要があります。
ところがモデリングソフトというのは、作成したモデルの質感やその空間が持つ空気感、もっと具体的に言えば光の反射・散乱といった、複雑な付影処理(シェーディング)を計算する機能を持っていません。
そのため、モデリングソフト単体でCGを作ると、光の陰影がのっぺりとした、安っぽいCGになってしまいます。
そこで、レンダリングと呼ばれる工程が必要になります。
レンダリングとは、作成した3Dモデルデータとそこに付属する質感のデータや光源の条件をもとに、より現実世界の光の乱反射を正確に計算し、リアルな質感や空気感を表現する一連の処理のことです。
上記のデータは、同じモデルデータのレンダリング前後です。
この通り、レンダリングなしでも3Dモデルを画像として出力することは可能なのですが、光の散乱や反射など複雑な計算を大幅に省略した画像しか出力できません。
そのため、どれほど高級なモデリングソフトを使っていても、レンダラーが無いとものすごくチープなパースになってしまいます。
逆に、レンダリングの質が良ければ、木材や石の質感、ガラスの反射や屈折、朝もやや夕焼けの空気感など、さまざま空間体験を見るものに連想させる、フォトリアルなグラフィックを作ることができるようになります。
こういうと、なんだか複雑な物理の知識やデッサンのスキルでも要求されるのか?と身構えてしまいそうです。
しかしレンダリング作業というのは、光源の条件や材質のデータを与えていれば、ほぼすべてPCが自動で処理してくれるため、事実上ボタン一つで完了します。
そして、レンダリングソフトが出力したCGを見ながら、
「この光源はもう少し明るくしよう」
「この壁の材質はもう少し光沢を出そう」
「カメラアングルはもう少し広角がいいな」
などの修正点を洗い出しつつ、少しずつ設定を変更して、理想の絵になるまで何度もレンダリングを繰り返すことになります。
さて、建築学科で利用されているレンダリングソフトとしては、以下のものが挙げられます。
- V-ray
- LUMION
- Flamingo
- twinmotion
これらの違いやダウンロード先、学習方法については、下記のまとめ記事を御覧ください。
4.ポストプロダクション(レタッチ)
最後に、ポストプロダクションについて解説します。
前述のレンダリングですが、
- 生物(人間・樹木)
- 水面・空
- ファブリック(カーテンやクッション)
- ちょっとした小物・インテリア
- 街角の掲示物・標識・広告物
などの物体については、再現が難しいという弱点を持っています。
そのため、こうした処理の難しい細々としたオブジェクトについては、後から画像の合成で写真を貼り付けてしまった方がむしろ効率的かつ効果的です。
また、
「建物のこの部分はもっと明るい空間のイメージなんだよなぁ」
「なんか室内の色味が全体的に青い」
「窓や水面の映り込みも、しっかり再現したい」
といった、レンダリングソフトでは対応できないようなさらに細かい調整も、場合によっては必要かもしれません。
より説得力のある建築パースには、こうしたレンダリング後の細々とした調整が必要になってきます。
ポストプロダクションとは、レンダリング後の建築パースに対して行う、一連の合成・調整・加工作業のことを意味します*1。
ポストプロダクションに用いられるソフトとしては、ほとんどAdobe Photoshopが一強というのが現状です。
ポストプロダクションに限らず、図面の着色から、敷地写真と模型写真の合成など、幅広く利用できる優秀なソフトですので、「建築パースの勉強はまだ後でいいや」と思っている方もぜひ勉強してほしいソフトです。
Photoshopによる建築パースのレタッチ・ポストプロダクションについては、日本語よりも英語での解説が豊富なため、ぜひ海外のチュートリアル動画を参考にしてください。
Photoshop Post Production | Architecture Visualization Rendering
こんな感じの解説動画が、You Tubeには無数に存在します。
(日本語で「建築パース 作り方」なんて調べても、ほとんどろくな情報はヒットしません。)
また、このブログでも基本的なパースの合成・レタッチに関する記事を書いていますので、よろしければそちらもご覧ください。
www.gakka-gokko.comwww.gakka-gokko.com
貼り付ける人物や背景用の画像は、さまざまなフリー素材サイトがあるので、それらを活用しましょう。
まとめ
以上、建築パースの作り方を
- 設計作業
- モデリング
- レンダリング
- ポストプロダクション(レタッチ)
という4つの手順にわけて解説してきました。
ちなみに、この記事では写真風のリアルな建築パースの作成を前提として話を進めてきましたが、
- アナログで線画→アナログで着色→PCにスキャン→レタッチ
- アナログで線画→PCにスキャン→Photoshopで着彩・レタッチ
- モデリング→線画を出力→レンダリングせずにPhotoshopで着色・レタッチ
など、いくつかの手順をアナログ化したり省略することで、イラスト風のパースを作ることも可能となります。
▼アナログで線画→デジタルで着色 の例
とくにレンダリング作業は、PCのスペックが非常に要求されるため、省略することもよくあります。
そのため、これから建築パースを学ぶ方は
- 3DCAD・BIMソフトを学び、モデリングできるようになる
- Photoshopを学び、合成や加工、着色ができるようになる
- レンダリングソフトを入手し、リアルなパースにチャレンジする
という手順を踏めば、効率的に学習できると思います。
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*1:「レタッチ」も、ほぼ同様の意味で用いられる単語です。こちらは写真業界で幅広く利用されている単語であるのにたいし、「ポストプロダクション」は建築パース以外ではほとんど聞かない単語ですね。