建築学科ごっことは?

建築学生よ、建築論文を読もう!

建築学科は理系学部でありながら論文の影が薄い。
半分以上の建築学科生は卒業制作で卒業するし、卒業論文を書く学生も3回生までは論文を読んだこともないという人も多い。 

しかし、実は建築系の論文は学生にとって宝の山だ。
それは、計画・構造・設備系の学生はもちろんのこと、設計・意匠・デザイン系に所属する学生や、まだ専門性を持たない一回生でも同じである。

今回の記事では、課題でのコンセプト探し期末テスト対策レポート執筆に苦しむ学生にとって宝の山になりうる、建築系論文の読み方探し方について紹介する。

1.建築学科生と建築論文

建築論文は4回生や大学院生だけのものではない。
卒業論文を書く予定のある人もない人も
やりたい研究が決まっている人もないない人も
意匠・計画・歴史・構造・環境どの研究室に所属する学生でも
建築系論文を読む価値はある。

まず単純にテスト対策やレポート執筆、課題のリサーチに役に立つ。
例えば、保育園設計の課題が出た時に、とりあえず保育施設に関する建築計画系論文を調べるだけでも、他の学生と違った設計の視点を手に入れられるだろう。
特に建築コンペでは社会性や歴史性を絡めたものや、構造・設備面での工夫を要求するものも多いので、設計・意匠系を目指す人間にとっても論文が与えてくれる情報の魅力は大きい。

また講義レポートや定期試験にも役に立つ。
なぜなら、大学の試験や提出物の作問・採点は大学教授が行っているわけだが、この際自分の専門分野について中心に出題する教授は極めて多いからだ。
だから、講義の教鞭をとる講師の執筆した論文を読めば、良い成績を取る上での近道となる。
これは言われてみれば(言われなくても)当然の事実であるのだが、「大学の試験対策のために、出題する教授の論文を読む」という対策を行っている建築学生は極めて少ない。

もちろん、将来卒業論文を書く予定のある人は、研究方法をイメージする上で早い時期から論文を読み込むことが好ましい。
あるテーマに対し、どのような調査・実験・史料をもとにどのような論理を展開し、どのように結論を導いているか、という点を執筆者の視点から想像する訓練を積んでおけば、4回生になった時に困らなくて済むからだ。

2.論文はどこで読める?

論文はだれでも無料で読める。

むろん公開されていない論文もたくさんあるが、公開されている論文だけでも何十万とこの世には存在する。
少しお金を払えば、更に広範囲の論文を読むことができるようになる。
学生でなくても、教授でなくても、学会員でなくても、研究者でなくても、東京にいなくても、論文は読める。

学生が論文を入手する経路は主に2つある。
ネット経由と図書館経由である。
以下それぞれ詳細に解説する。

図書館

 特定の読みたい論文があまり決まっていない場合、紙媒体のメディアの方が情報を見つけやすい。
そして、書籍や書類としてまとまっている論文が読みたければ、やはり図書館に足を向けるのが正攻法である。
というわけで、まずは図書館に足を運び、論文がたくさん乗っている簿冊を探し、図書館の閲覧スペースでパラパラとめくってみよう。

この場合、やはり大学の図書館で探すのが基本となる。
建築学科のある大学の大学図書館に論文集が収蔵されていないほど、日本の教育はまだ落ちぶれていない。

もちろん、市民に開かれた公共図書館であっても、大きめの図書館であれば主要な論文は揃っているはずである。
特に郷土史・都市史など、その地域にまつわる調査研究を行いたいのであれば、地元の図書館にある論文の閲覧が必須となる。

図書館で論文を探す方法1:論文雑誌コーナーから探す

特定の読みたい論文が決まっていない場合、まずは図書館で学術誌を読んでみよう。

 研究者が執筆した論文は、いきなり書籍化されるわけではない。
たいていは大学や学会が定期的に発行する研究紀要・学術誌・ジャーナルなどの雑誌に掲載される。

そのため論文を探すときは、まずこの学術誌を見るところから始めよう。
代表的な建築・都市系の学会としては、

などが挙げられる。

学術誌は一般書に比べて読む人が極端に少ないので、たいていわかりにくい箇所に書架が在る。
しかも雑誌類の保管は一度ばらして製本(合本)していることも多いので、具体的にどのくらいの大きさで何色の背表紙なのか、初心者にとっては見てみるまでわからない。
場合によっては閉書架にしか収納されていないケースもあるだろう。

というわけで、初めて学術誌を読むのであれば、素直に受付係の人に
「建築にまつわる学術誌を探しています」
「〇〇という建築論文誌はどこにありますか?」
「〇〇の大学の研究紀要って、おいてありますか?」
と聞いてしまおう。

特に、あなたの大学に所属する教員の論文を幅広く読むならば、この手法が手っ取り早い。

図書館で論文を探す方法2:一般書架から専門書を探す

普通研究者は、ある程度執筆した論文が溜まってくると、それを体系的に編集し直して書籍化する。
あなたの大学の教授名をAmazonで検索した時にでてくる書籍は、概ねこうした論文集である。
特定の教員の論文を通読したいならば、この手の書籍を探すのがよい。

注意点としては、大学の教員が執筆した文章がすべて論文であるというわけではない点である。
論文集とそうでない書籍の違いを見極めるには、巻末に脚注と参考文献一覧があるかを見てみるのがもっともわかりやすい。

情報の典拠が書かれていない書籍は、どれほど内容が専門的でも、論文とは言えない。

インターネット経由

図書館での調査に加えて、インターネットから論文を手に入れるという方法もある。

インターネット検索は自宅でもかんたんに行える手軽な論文検索手法である。
ただし、検索窓にキーワードを入力して検索するという手法の性質上、ある程度自分が読みたい論文のジャンルや領域や執筆者が明白になっていないと使えない。

そのため、「何でもいいから建築の論文が読みたい」という場合は紙の論文集を図書館で読み、
「特定の執筆者の論文や特定テーマの論文を探している」という場合は、ネットで検索して読む
という使い分けが必要になる。

ネットで論文を探す方法1:J-stageで探す

学生にも扱いやすく、かつ膨大な論文が読めるサイトとしてJ-STAGEが挙げられる。
掲載されている論文は、一部論文を除き、ほとんどすべて本文PDFデータを無料でダウンロードできる。
気軽に検索して気軽にPDFデータをダウンロードできる「使いやすさ」という点において、J-STAGEはもっとも学生に親しい論文検索サイトと言えるだろう。

まずは試しに、「京都 町家」とか「パタン・ランゲージ」とか、あなたの興味のある単語やジャンルで論文検索してみよう。

www.jstage.jst.go.jp

ネットで論文を探す方法2:CiNiiでさがす

同じく論文掲載サイトとしてCiNii(サイニー)が挙げられる。
こちらも日本語論文の学術データベースで最も網羅性も高く、研究する上では避けて通れないサイトである。

Jstageとの違いとしては、網羅性の高さゆえに生じる玉石混交の感が、初心者にはいまいち使いづらさとなる点が挙げられる。
実際に調べてみるとわかるが、エッセイめいた文章やよくわからない紀要、論文雑誌の目次のみの掲載なども多く、またオープンアクセス(無料公開)になっていないものも多い。
UIも見苦しく、初心者が論文を探すには正直な所やや使い勝手が悪い。

とりあえず初めて論文を読んで見るだけなら前述のJ-STAGEの方がハードルも低いだろう。
J-stageの検索結果だけで満足が行かない時に、コチラも試してみるという使い方が望ましい。

ci.nii.ac.jp

ネットで論文を探す方法3:WorldCat:で探す

WorldCat:は71,000以上の図書館の蔵書を目録化した世界最大の書誌情報データベースである。

日本の大学・学術機関も多数登録しており、日本語検索にも対応している。
各機関のリポジトリリンクも充実しており、検索すればある程度容易に全文PDFにも巡り会える。
あなたの調査したい分野が世界レベルのものである場合、英語圏の情報にも触れられるこちらのサイトが便利だろう。

正直な話をすれば、筆者はあまり使ったことがない。

oaister.worldcat.org

ネットで論文を探す方法4:普通にGoogleで検索する

ある程度専門的な単語をGoogle検索すると、普通に論文が見つかることもある。
大学のリポジトリや、論文執筆者の個人ブログで公開された論文が、PDFとして読めるケースである。

また、「〇〇教授が書いたあの論文がよみたい!」というような特定の論文がすでに決まっているのであれば、その教授の連絡先やHPを見つけ、直接連絡をとってPDFを送ってもらうという方法もある。

ネットで論文を探す方法5:国会図書館の遠隔複写サービスを使って取り寄せる

こちらはやや上級者向け。

「どうしても読みたい論文があるけど、ネット上にも図書館にもデータがない!」
という人のための最終兵器が、国会図書館にある。

www.ndl.go.jp

届くまで1週間ほどかかる上、数百円の複写料金・発送事務手数料・送料が必要になるが、ほぼ確実に特定の論文を読むことができる。 

請求には、国会図書館への利用者登録と、読みたい論文のタイトルや掲載雑誌、掲載ページを先にはっきりさせる必要があるため、まったく論文雑誌を読んだことのない学生が単独で使うには、ややハードルが高いかもしれない。
が、本格的な卒業論文などを書く際には、避けては通れないサービスとなる。

わからないことがあれば下記ページも参考に。

参考:よくあるご質問:来館しないで複写する(遠隔複写)|国立国会図書館―National Diet Library

3.論文の選び方

膨大な論文から興味あるテーマの論文を見つけるのはある種の嗅覚が必要である。

その嗅覚がまだ無いうちは以下の方法で論文を探すのを、1つの目安としてみてほしい。

  1. 適当にパラパラ眺める
    図書館で学術誌を眺めるの場合。ざっくりとページを捲りながらタイトル・副題などを眺めていき、目についた論文があればちょっと読んでみる。この抵当に眺めるという行為は紙の本ならではの読み方である。
  2. 自分の興味のある単語で検索
    ネットで探す場合。興味あるワードで単語検索してみる。具体的に関心のある分野がある場合やレポート課題の参考として論文を読むならこの方法。
  3. 自分の大学の教授名で検索
    特に講義を受講している教授の書いた論文は、そのまま期末テスト対策・レポートのヒントになるケースも多い。
  4. 出典をたどる
    初心者から本職の専門家にいたるまで行っている、非常に汎用性のたかり論文の検索方法である。
    論文の末尾には、執筆にあたって参照した他の論文や書籍が一覧となっている。そのため興味深い論文や書籍が一つ見つかったとき、その巻末にかかれている参考文献や出典リストを眺めて、芋づる式に関連研究を探すと、その界隈で有名な論文や定番の論文に容易にたどり着く事ができる。
    また、多くの論文から引用されている論文は、その学域における共通認識となっている事を意味するので、出典をたどれば体系的に知識をつけることができるようになる。
    こうした理由から、面白い論文を一つ見つけたら、参考文献から芋づる式にたどることでより読みたい論文を探し出すことができる。

4.どこに注目して読む?

いざ面白そうな論文を見つけたとして、その論文のどこに注目すればいいのであろうか?
「論文は頭から終わりまでじっくり読み解いていかなければならない」と思い込んでいる学生も多いが、大きな誤解である。

研究者は初見の論文を読む際、タイトルと著者の他に下記の点を眺めて、その論文の品定めをしている。

  1. 掲載雑誌
    雑誌の質は概ねそのまま論文の質に比例している。
    「質の低い雑誌」といっても学生のうちはあまりピンと来ないかもしれない。
    しかし論文紙の中には、査読などがあまり機能しておらず、掲載論文を出典として取り上げるのが憚られる「質の低い」雑誌も、正直いって存在する。
    のため、本職の研究者が論文を読むときは、その雑誌の掲載誌を見ることが多い。
    でも初心者のうちは、あんまり気にせずガンガン読みやすいところから読むのも重要。
  2. 出典・参考文献
    その論文を書くにあたって、参考にした文献の一覧である。
    特に、どのような一次資料に基づいて執筆したかという点は重要となる。
    (どのような実験?どのような調査?どのような史料?それは学生の自分でも取り組める内容?)
    これは特に将来論文を書く予定があるなら絶対に見ておかなければならない。
    また、前述のとおり、各論文の参考文献を芋づる式にたどるだけでも、その分野の中心となる論文や書籍、研究者が一望できる。
  3. 梗概と結論
    以上2点で読むべき論文を選別したら、いよいよ内容に取り掛かる。
    論文は最初に梗概が、最後にまとめが載っているのが基本である。最初と最後の章を読むだけでもその論文が何をテーマとし、どんな結論を得たのかがわかる。 

同じテーマの論文でも、論文によって読みやすさに差がある。
地名や人名、年代、専門用語が多い論文は時間をかけて地図や年表や人物関係図を作りながら読めば読めることも多いが、技術系論文は基本となる知識がないと検索もできないので難易度はやや高い。

興味ある論文を10程度選び、その中からまだ内容を理解しやすいものを、時間をかけて読み込む。
最初の3報あたりは読むのに体力も要するが、次第に基礎知識も固まり、体系的な理解が深まってくる。

1つだけ読んで「難しすぎるし、自分にはまだ早かったな」と諦めないことが重要となる。

最後に

読むに当たっての注意点が2つ

一つは読んだ論文を利用する際のマナーについて。
レポートや自分の卒業論文への丸写しなどもってのほか。
建築課題の参考に使った際も、紙面内のどこかに少しでいいので参照元を書くのが好ましい。

もう一つは、論文は情報としての精度・信憑性はけして高くないということ。
論文は一人の執筆者とせいぜい数名の査読者によってしか品質が担保されていない。
出版物のように市場の原理や時代による選別がなされているわけでもない。
中には捏造とまでは行かずとも、考察や論証が甘い論文もある。

論文というだけでその内容を神格化してしまわないこと。
論文>書籍というわけではない。
なんとなく論文だから正しいに決まっていると考えると痛い目を見る。

論文は、情報の網羅性や正確性、教育的な有用性で言えば出版された本より数段劣る(事が多い)と心がけて読む必要がある。

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