卒業設計とはその名の通り、建築学科の学生が卒業の直前に取り組む、いわば大学生活最後にして最大の設計課題のことです。
そして卒業設計展とは、そうした建築学生の4年間の集大成が一つの空間に介する展示イベントです。
卒業設計展には、卒業生にとってはもちろん、後輩にとっても、大学にとっても、あるいはその大学を志望する高校生にとっても、そして建築業界の企業にとっても、さまざまな意味があります。
卒業設計展は建築学生にとっては、4年間学んだ研究成果を世に問いかける場所でもあり、同時に苦楽をともにした同級生達としのぎを削り優劣を競う真剣勝負の空間です。
作品同士のぶつかり合いは一つの建築学科内には収まりません。
卒業設計展には、全国の大学からわれこそはという学生たちが出展し、プロの建築家達から審査されるコンテスト形式のものもたくさんあります。
そこはもはや学生同士の競争のみならず、時にこれから巣立つ建築士の卵である学生たちと第一線で活躍するプロの建築家との戦いにさえ発展するほどの、熱い熱い空間となります。
この記事では、将来設計士になりたいと夢見る高校生や、入学したばかりで建築設計というものをうまくつかめきれていない新入生を対象に、そんな卒業設計展の魅力を伝え、実際に足を運ぶまでの案内をしてみたいと思います。
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1.大学の卒業設計展を見に行こう
卒業設計展というのは、建築学科における4年間の集大成です。
そしてそれは学生にとっての集大成であるだけでなく、その大学自体の教育力や指導力の現れでもあります。
そのため卒業設計展というのは、これから建築学科に入学したいという高校生の方や建築学科に入学したばかりの学生にとってみれば、その大学の実力やポジションを見定めることができる貴重な機会です。
もちろん、大学のオープンキャンパスを見に言ったり、建築コンペでの活躍を検索すれば、その大学の学生の設計力をなんとなくつかむこともできます。
しかし、卒業設計展は以下の3つの点から見て、その大学の設計力がより顕著に浮かび上がっています。
大学ごとの違いが浮き彫りになる、卒展3つのポイント
- その学年のすべての学生の作品が並ぶ
→優秀な学生だけをピックアップして並べられないので、大学毎の実力者が浮き彫りになる - 研究室ごとに作品が展示される
→その大学にどのようなゼミがあり、どのような研究テーマが主流なのかが見える。 - 他の大学と比較できる
→卒展の時期は大抵1月末〜3月末に集中するので、短期間の間に複数の大学の作品を見て回ることが容易。
そして、卒業設計展で見えるのは、その大学の学生の実力だけではありません。
芸術的な作品を好むのか、システマティックな計画性に重きをおくのか、自然環境との調和をよしとするのか、と言った大学ごとの作風の違い。
あるいは、構造・設備・歴史・材料といった非設計系の研究がどのくらい重視されているのか、などの学内のパワーバランス。
そういった大学のパンフレットや先輩の評判だけではつかみきれない、大学の内情や大学同士の強み弱みに至るまで、丸裸にされてしまう舞台なのです。
開催情報
大抵はネットで検索すれば出てきます。
ただ、グーグル検索で出てきた情報は古いものの場合もあり、その年の開催情報を集めるのに苦労するかもしれません。
その年の開催情報を見るには、むしろ
「〇〇大学 + 卒業設計展」
でTwitterで検索することをおすすめします。
なぜなら、毎年12月-2月くらいになると、各学科の学生が卒業設計展イベントに関する広報アカウントを作成するからです。
それをみていれば、イベントの開催時期や開催場所に関する情報はもちろん、現在の卒業設計の進捗報告からちょっとした建築学科に関するコラムまで、さまざまな情報を手軽に見ることがっできるからです。
注意点
基本的には企画の性質上、開催時期が1月末~3月初めに集中します。
これは受験を控えた高校3年生が行くには不向きな時期ですが、もしあなたが建築学科を志望している高校2年生以下なのであれば、ぜひお近くの大学の設計展を見に行くことをおすすめします。
参考までに、2018年度の主要大学の卒業設計展開催時期を、下にまとめてみました。
- 東大・東京芸大・東工大「三大学卒業設計合同講評会」
3/10(日) - 京都大学「卒業設計卒業論文展」
2/16(土)〜2/21(木) - 京都工芸繊維大学「卒業・修了制作展」
2/14(木)〜2/17(日) - 早稲田大学「早稲田建築学科有志卒業計画展」
3/18(月)〜3/23(土)
過去の開催状況
また一部の大学では、開催の様子を書籍という形で出版・公開しています。
2.全国の卒業設計展を見に行こう
ここまで一つの大学が行う卒業設計展を中心に見てきましたが、
卒業設計展には、全国の大学から作品を集めたものもたくさんあります。
両者の違いは大きく2つあります。
一つは、当然全国レベルの卒業設計展のほうがクオリティが高いこと。
大学ごとに開かれる設計展はその大学の卒業生全員が出品しますが、全国から募集するタイプの作品展は各大学の意欲在る志望者が自費で申請・郵送しているので、全体の意気込みが違います。
まぁ、地区大会と全国大会の違いですね。
今一つは、会場全体の緊張感が高いこと。
大学の卒業設計展はいわば大学のお披露目的な性質が強く、雰囲気としてはギャラリーに近いものがあります。
しかし大規模な卒業設計展は、そもそもの開催趣旨がコンテストに近く、会場にも「俺の設計が日本で一番の卒業設計だ」という学生がひしめいているため、ピリッとした空気が流れています。
この全国的な卒業設計展で才能を見いだされ、建築業界で地位を築いていった作家も数多く存在するなど、建築学生にとってはまさに登竜門とも言えるイベントなのです。
開催情報
- せんだいデザインリーグ 卒業設計日本一決定戦
- 京都建築学生之会 Diploma×KYOTO
- 全国合同卒業設計展「卒、」
- 赤レンガ卒業設計展
- 学生設計優秀作品展(レモン展)
- トウキョウ建築コレクション
- 全国学生卒業設計コンクール
注意点
前項の大学による設計展と同じく、大会の開催は2月~3月に集中します。
また、規模の大きな大会になると、見学・閲覧にも事前申し込みが必要な場合があります。
詳細は各イベントの公式HPやリーフレットをご確認ください。
過去の展示に関する情報
こちらも、毎年コンテストの結果と審査過程が、冊子としてまとめられています。
日本最高峰の設計作品を自宅で眺めたい方はぜひお手元に一冊どうぞ。
まとめ
建築学科のいいところは、卒業設計展というイベントを通じて、卒業時点での自分の将来イメージや理想像をつかみやすくなれる点です。
「この大学の建築学科にはいれば、自分もこんな素敵な設計ができるようになるのかな?」
という憧れに勝る受験モチベーションはありません。
残念なことに、卒業設計展は2月から3月に開催されることがほとんどのため、高校生が「そろそろ志望校きめないとなぁー」と思い始めた頃にはすでに終わっているケースも多いと思います。
逆に、もし今あなたが高校2年生以下の年で、将来建築学科に少しでも興味がある場合、ぜひ最寄りの大学で行われる卒業設計展をご覧になってください。
【重要】
・建築系
・デザイン系
・美術系
の大学を志望している高校生・浪人生、あるいは合格した新入生の皆さん!今直ぐ志望校の「卒業設計展」の日程をチェックしてください!
毎年2月から3月に開かれる卒展は、その大学の実力や雰囲気を把握する最大のチャンスです!https://t.co/pdXh8MmNZu— 建築学科ごっこ (@gakkagokko) February 3, 2020
加えて、「せんだいデザインリーグ」など、全国の建築学生がしのぎを削るイベントも、この時期に集中します。
申し込み制のイベントも多数です。
建築学科に進むなら、絶対に観にいきましょう。https://t.co/qb1XDKYPju— 建築学科ごっこ (@gakkagokko) February 3, 2020
その建築学科の学生レベルを測る上で、進学実績やカリキュラムや大学設備などは比較的ゴマカシのきくポイントのため、あまり参考になりません。
しかしその大学の卒展は、学生の能力水準や雰囲気が如実に現れます。
卒展は、入学後の「こんなはずでは……」という不幸を回避する、一番の機会です。— 建築学科ごっこ (@gakkagokko) February 3, 2020
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