スマホの大衆化に伴い、PCを持たない・持ったことがない学生というのは珍しくないそうです。
これは、手軽にだれでもインターネットに接続できるようになった反面、PCの使い方を全く学ばないまま大学入学に至った学生も増加したことを意味しています。
そのような学生の皆さんにとって、
「目的にあったPCを選ぼう!」
と言われてもどうすればいいかわからないでしょうし、
「建築学科ではハイスペックなPCが大事!予算は20万円!」
というネットの言葉は、非常に遠いもののように感じられるのでは無いでしょうか?
この記事は
- これまで自分のPCを持ったことがない
- ブラインドタッチが出来ない
- 「ブラウザ・解凍ファイル・ショートカットキー」と言われてもなんのことかわからない
というレベルの新入生をメイン読者として、あなた自身のデジタルリテラシーやPCを使う目的の整理を行うと同時に、建築学科入学段階でのPCの選び方や買い方、あるいはその前提知識や4年間の買い替え戦略を考察するものです。
▼まとめ記事
0から始める、建築学生のためのPC選び入門PCの購入にまつわる2つの大前提
はじめに、PC初心者が建築学生としてPCを購入する場合、どうしても理解しておかなければならない2つの大前提があります。
それは、
- 大前提1:PCは消耗品である
- 大前提2:建築学科は1年生のうちはあまりPCを使わない
という2点です。
大前提1:PCは消耗品である。
意外に思われるかもしれませんが、PCは消耗品です。
これは3万円の超低価格PCから20万円を超えるプロ向けPCまで、値段によらず共通です。
スマホが長く使っているとバッテリーがダメになるように、PCも3-4年くらいたつと、特に電源周り(バッテリーやコンデンサ)が摩耗しはじめ、動作は重くなり、故障の確率が飛躍的に上昇します。
この図は、機械製品の故障頻度を表した曲線とした「バスタブ曲線」と呼ばれるものです。
この図からも分かる通り、製品の故障とは、「ジュースをこぼした」などの偶発的な故障よりも、「初期不良」や「摩耗」による故障率の方が高いのです。
そしてその故障率の上がるタイミングが、PCで言えばおよそ利用から3年ほどとされています。
これは、どれほど丁寧に扱っていても、それが国産有名ブランドのPCであったとしても同じことです。
そのため、1年生の頃買ったPCを使い続けるという戦略は、卒業設計という一番PCを酷使する4年生の頃にPCが寿命を迎えるということも意味しているのです。
大前提2:建築学科は1年生のうちはあまりPCを使わない
建築学科で要求されるPCスペックは、年を追うごとに高いものになっていきます。
これは、
- カリキュラム的に学年が上がるほど大規模な設計が要求されること
- 学習が進むにつれ、CADソフトやグラフィックソフト、BIMソフトなどの高機能ソフトの利用頻度が高まること
- こうしたソフト自体、毎年のアップデートによって少しずつ高機能化していること
などが、その原因に挙げられるでしょう。
しかし、こうしたハイスペックなPCが必要になるのは、多くの場合3年生や4年生からの話です。
1年生のうちは基礎教養科目が中心で専門科目や設計課題がないという大学も非常に多いのです。
そのような大学の場合、1年生のうちはPCを使うとしてもせいぜい
- ネット閲覧
- レポート執筆
- 画像の印刷
くらいです。
こうした目的での利用を前提とするのであれば、一台5万円以上するPCを入学時から買うメリットはほとんどありません。
(コンビニの印刷機などを使えば、スマホでも対応できるかも)
一年生が「いいPC」を買うのは、もったいない
よく、「一年生のうちからいいPCを買って、そのPC4年間大切に使い続ける」という発想で、PCを買おうとする人がいます。
しかし以上の2つの前提を踏まえてみれば、実は大学1年生時点でPCを買ってしまうのは、実は結構リスクが高いのです。
なぜなら、1年生の時に買ったPCを4年間使うということは、PCが一番調子のいい時にはあまりPCを使わないのに、PCの調子が悪くなってくるに従ってPCを酷使するようになることを意味するからです。
まして、PCの値段は年々安くなります。
「3年前までは15万以上の値がついていたPCが、技術の発達により今では10万円で買える」という事態は、けして珍しいものではありません。
下記の記事のとおり、同じスペックのPCが1年で1-2万円程度安くなることは稀では無いからです。
例えば
- 今すぐ15万円のPCを買って、4年間大切に使い続ける学生
- 今は3万円のPCを買って、3年生のときに10万のPCを買う学生
という二人が、4年生の卒業設計に挑むと仮定しましょう。
このとき、前者の学生が持っているのは4年前発売の型落ちした中古PC同然であり、後者の学生は昨年発売したばかりの新品同然のPCという、歴然とした差が現れます。
また後者の学生はPCを2台所有しており、場合によってはそれらを使い分けることで作業を並行して進められる上に、支出総額で言えば前者の学生より安いのです。
おまけに前者の学生は、PCの扱いがほとんどわからない時期にPCの性能が一番安定している時期を過ごしてしまっているという、もったいなさ。
以上の点から見ても、PCの使い方をほとんど把握していない初心者が、いきなり10万も20万もするPCを購入することは、非常にリスクの高い行為なのです。
一台目のPCの選び方
「PCを買わない」という選択肢もNG
しかしこうした議論から、「一年生はPCを買う必要がない」という結論になるかといえば、そう簡単な話ではありません。
「一年生のうちはほとんどPCを使わない」ということと、「一年生のうちはPCを学ぶ必要がない」ことは、全く別のことです。
なぜなら、「スマホにのみ慣れた人間がPCを使うためには、練習が必要」だからです。
例えば近年では、iPadを始めとするタブレット端末の進歩も凄まじく、ちょっとしたレポートの作成やネットの閲覧、テレビ会議程度であれば、ノートPC とほとんど同じ作業ができる水準に達していると言えるでしょう。
そのため、「一年生のうちはPCなんて買わずに、タブレット+キーボードだけでも十分」という見方をすることも、実は可能なのかもしれません。
しかし、下記の記事でも論じたとおり、建築学生が「PCを買わない」という選択肢は有りえません。
それは、スマホやタブレットが「受信と消費の道具」であるのに対し、PCは「創造・発信の道具」だからです。
なぜスマホ・タブレットはアウトプットに向かないのか
なぜスマホ・タブレット端末がPCに比べて創作に向かないかといえば、以下の3つの限界があるからだ。
スペックの限界
単純に内蔵されたCPUやメモリやGPUが足りないので、必然的にできる作業に限界がある。iPadにも画像編集ソフトやCADやモデリングソフトはあるが、PC版と比べて明らかに機能が乏しいのはこのためである。
入力デバイスの限界
スマホもタブレットも、基本的にタッチパネルのみでの入力が前提にある。これはマウスとキーボードを併用するPCに比べ、短時間で入力できる情報の量や精度に限界がある。
ファイル管理の限界
タブレットには、アプリを超えて受け渡せるデータのフォーマットに制限がある。例えばPCのように、「CADアプリで線画データを作り、それを3Dモデリングソフトに受け渡し、レンダリングした画像を変数ソフトでレタッチ」など、ソフト同士で作成したデータをやり取りすることが非常に難しい。
(引用:iPad Proを買おうか迷っている建築学生へより)
ノートPCとタブレット端末というのは、単にマシンパワーの強弱だけではなく、データの入出力や操作方法に根本的な差があります。
もしあなたが3年生になったときに「必要になったから」とようやく10万円以上するPCを購入したとしても、その時はまず「PCの使い方から慣れる」ところから始める必要が出てきてしまい、大変非効率です。
そのため「1・2年生の間はタブレット、3・4年生からPC購入」という購入の仕方は、一見効率的な方法に見えて、PCの使い方を学ぶという観点から見ればあまりおすすめ出来ないのです。
以上の点から、このブログでは初めてPCに触れる一年生の方には、
「1・2年生の時は安いPCでパソコン独特の操作に慣れておき、3・4年生になったところで高価なPCを買って、本格的に建築ソフトの使い方を学ぶ」
という学習計画を採用することを、強くお勧めしたいと考えております。
結局、PC初心者はどんなPCを買えばいいの?
一年生がいきなりいいPCを買うのは得策ではない。
とはいえ、一年生のこのタイミングでPCを買わないと、そのままズルズルとPCを学ぶきっかけを失ったまま4年間を過ごす可能性も否めない。
以上の点を整理してみれば、「これから初めてPCを買う学生」にとって最適なのは
- 1-2年生のころは安いPCを買って基礎的な操作を学ぶ
- 3-4年生の頃に本格的なPCを買って発展的なソフトの使い方を学ぶ(旧PCはサブ機として利用する)
という購入戦略だと思います(例外については後述)。
では、その「安いPC」「本格的なPC」とは、具体的にどのようなスペックなのでしょうか?
以下の記事にもある程度詳しく書いておりますが、この記事でも要点をおさらいしておきたいと思います。
【予算20万円以下】Q. 建築学生におすすめのPCを教えてください。5万円前後の安いPC
- 「PCは中学の情報の授業で習っただけ」
- 「スマホのフリック入力のほうが、キーボード入力より早い」
- 「なんかWord?Excel?ていうのがあるらしいね」
というレベルの方は、この価格帯のPCから学び始めるのがいいとおもいます。
というか、このレベルで「PCがわからない」という人は、率直に言って「どんな性能のPCを勝ってもほぼ同じ」です。
そして、一年以内に「こんなPCじゃ何も出来ないよ!」と感じる様になることを目指しましょう。
なぜなら、「〇〇がしたい」という欲望と「◯◯が出来ない」という不満感こそが、最もよい勉強の動機になるからです。
このPCでできること
- ネットの閲覧
- 資料作成
- オンライン会議
選ぶ際の注意点
繰り返しになりますが、このレベルの初心者がPCを買う目的は
- とにかく一刻も早く、PCの基本的な操作に慣れること
- スペックの低いPCにはどんな問題があるのかを身を持って知ること
の2点にあるからです。
初心者のPC選びなど、どうやっても失敗するのが普通です。
であるならば、とにかく時間的・経済的な損失を最小限に抑えた上で、「早くうまく失敗する」ことを目指しましょう。
誤解を恐れずにいいましょう。
知識も無ければ判断基準もない人間が買うか否かを悩んでいても時間の無駄です。
製品例
10万円前後のノートPC
- 「PCは初心者だけど、予算には余裕がある」
- 「2年以内に、PCで製図できるレベルを目指したい」
- 「バカにするな、キーボード入力くらいはできらぁ!」
という方は、もう少し高価なPCを買ってみましょう。
このくらいの価格帯のPCになれば、世間一般には「高性能」なPCという扱いになり、建築学科でよく利用されるCADソフトやAdobeソフトが、ギリギリ利用できる最低限のスペックと言えるでしょう。
ただし、大規模な建築設計の図面であったり、複雑で高解像度のグラフィックの編集となると、少しマシンパワーが不足かもしれません。
位置づけとしては「クリエイターのための入門用PC」ぐらいのポジションと言えるのではないでしょうか?
このPCでできること
- 住宅規模のデジタル製図(Jw_cad・AutoCAD)
- ちょっとした画像編集(Illustrator・Photoshop)
- 初級-中級レベルのプログラミング
選ぶ際の注意点
留意すべき点があるとすれば、このぐらいの価格帯のPCは、建築学科にとって中途半端なスペックになりがちという点です。
10万円のPCというのは、「IllustratorもPhotoshopもAutoCADもRhinocerosも使えるけど、微妙にスペックが足らなくて操作が快適ではない」という、痛痒い立ち位置になりかねません。
そのため、建築学科でこの価格のPCを買うとすれば
- PCのことがわからない人が、それでも少し背伸びして学びたい場合
- そのPCで何をしたいかが明白な人が、長短や特性を理解した上で買う場合
の2択になるかと思います。
購入の際は、「自分の能力以上のPCを買った」と自覚して買うか、もしくは下記の記事などを参考にしつつ、「そのPCでは何が出来て、何が出来ないか?」という仕様をしっかり把握した上で買いましょう。
建築学生におすすめのPCの選び方|グラフィックボードに関する補足製品例
15万円前後のノートPC
- 「同年代の中ではPCやデジタルに詳しい方だと思う」
- 「1年生の頃から、バリバリ建築スキルを身に着けたい」
- 「じつはネットゲームなどのPCゲームもしてみたいんだけど……」
たとえ一年生であっても、こういう方にとっては、10万円以上するPCも無駄ではないと思います。
このぐらいのPCであれば、4年生の卒業設計にも十分耐えうる性能を持っています。
(ただ繰り返しになりますが、1年のときにこのランクのPCを買っても、それを4年間メインで使い続けようなどと思わないでください。提出直前の一番やばい時期に、電源がつかなくなる事例が毎年発生しているのです。)
ちなみに、より大規模で複雑なBIMモデリングや、高度な構造計算・設備シミュレーション、あるいは映像編集やVRエンジニアリングを行うには、ぜひとも20万円以上のPCがほしいところです。
が、この記事を読んでいる方にとっては遠い話だと思うので、この記事では割愛したいと思います。
このPCでできること
- 本格的な製図・画像編集
- 住宅規模の3次元モデリング(Rhinoceros)
- ネットゲームなどの高度なPCゲーム
選ぶ際の注意点
建築学科で10万円以上のPCを買う際に絶対に気をつけたいのが、GPUの有無です。
GPUとは、建築学科での作業において極めて重要な役割を果たすPCパーツです。
建築学生におすすめのPCの選び方|グラフィックボードに関する補足通常PCのスペックというものは、CPUやメモリー、ストレージなどの場合、価格が上がるにつれて性能も比例して上昇します。
ところがGPUは、物によっては10万円以下のPCであっても搭載されているのに対し、30万円の値がつくにもかかわらずGPUが搭載されていないPCも存在するなど、かならずしも値段と性能が一致しません。
そして建築学生にとって、10万円以上するにも関わらず独立GPUの載っていないPCなどハズレくじ以外の何物でも有りません。
そのため、この価格帯のPCを購入する際は、ぜひともグラフィックボードに関する知識をつけた上での購入を、強くおすすめしたいと思います。
建築学生が買ってはいけないノートPCの特徴具体例
例外:いますぐハイスペックなPCを買ったほうがいい人
ただし、上記のPCの選びかたには3つの例外があります
これに当てはまる方は、多少高くても10万円や15万円するPCを、初心者のうちから買うメリットがあると思います。
1.一年生のうちから、高性能PCを使う授業・課題がある
第一に、大学のカリキュラムの問題です。
あたりまえですが、「一年のころからライノセラスの授業がある」などの大学の場合、「一年生のうちはほとんどPCを使わない」という前述の大前提が崩れるため、新入生でもハイエンドPCの購入が必須となるでしょう。
そのためまずは、大学シラバスや生協からの案内、建築学科の先輩などから
「どんなPCが必要か?」
「授業ではPCをどのように使うのか?」
という前情報を聞く必要があります。
(こんなのは、このブログに目を通す以前のあたりまえの話なのですが……)
2.一年生のうちから高性能PCを使う明確な目的がある
あるいは、「大学のカリキュラムなんて待ってられない。独学でもいいので設計やデザインを学びたい」という志を持っている方であれば、いきなりいいPCを買うことをおすすめします。
1回生のうちからCADによる製図を学んだほうがいい理由を3つ上記の記事のとおり、大学でPCを使わないことと、あなたがPCを勉強するかしないかということは、本質的には別問題です。
たとえ今現在まったくPCに詳しくなかったとしても、ハイエンドPCを買う明確な目的が在るのであれば、 ためらわず購入しましょう。
3.予算が豊富
以上の議論はそもそも、「限られた予算と在学4年間という経済的・時間的なリソースの制限のなかで、何をどこまで学べるか」という議論なので、
「PC?よくわからんけど50万くらい出せるよ?」
みたいな人には根本的に無意味な議論です。
それは極端な例にしても、
「今すぐ10万円だせるし、3年生の頃までにさらに20万円をバイトして貯めてやる!」
という意気込みがあるのであれば、ぜひプロ向けのPCに今からでも挑戦してみてください。
基本的に自分の脳力よりも遥かに性能のいいPCで勉強したほうが、学習の成果が頭打ちにならずのびのび勉強出来るのも事実です。
ぜひ潤沢な予算で、思う存分建築設計やデザインを学びましょう。
▼まとめ記事
0から始める、建築学生のためのPC選び入門