建築学科は日本では理系、中でも工学に分類される学問ですが、近年課題もコンペも、より周辺敷地との関係や歴史性・地域性等をますます重要視するものがふえてきました。
もはや建築家は単に施主や利用者の要望をまとめてかっこいい建築を作ればいいだけの人間でなくなりつつあり、建築家には芸術家や技術者だけでなく社会学者や経営者としての能力も必要ということです。
そんな今、様々な地図情報を分析し、可視化し、人に伝えるリテラシーは建築学科必須の教養と言えます。
しかし、模型の作り方や設計手法と異なり、いわゆる客観的なデータから土地・敷地を読む技術にかんする最低限のノウハウはあまり話題に上らず、教授や先輩から教わる機会も少ないのが実状です。
そこで、
「土地を読むって具体的にはどうすりゃいいんだよ!」
「プレゼンボードに載せるシンプルできれいな地図がほしい!」
「敷地模型作成に便利なサイトって無いの?」
というあなたに、様々な観点から地形や地図を取り扱う便利なサイトやツールを紹介しようと思います。
1.GoogleMap・GoogleEarth
(写真はGoogleMap上で表示した長崎県佐世保市)
言わずと知れた、グーグル社が提供する電子上の地図&地球儀です。
縮尺を指定できない、地図上の文字や記号を非表示に出来ない等の欠点はありますが、最も手軽に使える地図と言えるでしょう。
また、各種CADソフトがGoogleMapとの連携機能を持っていることも大きな強みです。
2.国土地理院基盤地図情報サイト
(写真は基盤地図情報ビューアで東京都練馬区を表示したもの)
当サイトでも何度か取り上げている基盤地図情報とそのビューアソフトです。
GoogleMap最大の弱点だった縮尺の指定の記号の非表示を補う万能型の地図と言えます。
日本中の正確な地図を読み込み、表示、PNG化、印刷できる素晴らしいソフトですが、ダウンロードが煩雑で初心者殺しな点がネックです。
また、この基盤地図情報を元にして更に高度な操作をできる各種ツールも存在しています。
Windows専用ソフトですが、Mac用に品川地蔵様作成のソフト基盤地図ビューアがあるのでマカーの方はコチラを参照。
詳しくは▼記事をどうぞ
3.VectorMapMaker
(写真はVectorMapMakerで作成した香川県高松港のデータをJw_cadで表示したもの)
2.で紹介した基盤地図情報をIllustratorやCADで使えるようベクターデータに変換するソフトです。
これまでイラストレータの四角形ツールやライブトレースツールで時間をかけてなぞっていた敷地図ですが、このソフトを使えば一撃で、しかも極めて正確な地図データを作ることが出来ます。
〉RT
基盤地図情報はとても便利ですし、vector map makerはさらに便利ですね。知らない方のために説明すると、Illustratorで扱える地図データをダウンロードできます。
水域、等高線、行政区画、必要な情報はほぼすべてダウンロードできます。
もちろん、無料です。https://t.co/rQuTo5nJCC— 建築学科ごっこ (@gakkagokko) 2019年1月24日
詳しくは▼記事をどうぞ
4.カシミール3D・カシバード
(写真はカシバードで作成した京都府京都市の3D地形図)
同じく2.で紹介した基盤地図情報をもとにしたソフト。
こちらは等高線情報から3Dデータに変換し高低差を可視化することに優れた山岳ソフトです。
ブラタモリでもおなじみですね。
影や色味で高低差を表現する地図だけでなく、山岳を3D表示して眺められるカシバード機能も使い方に夢が広がります。
写真は白黒ですが、カラーにしたり解像度を上げたり撮影レンズを変えたり多彩な表現が可能となります。
5.地理院地図
(写真は地理院地図で表示した宮城県仙台市の空中写真)
さまざまな航空写真を地図上に重ねて表示できるサイトです。
画面左上の[情報]タブからベースとなる日本地図とその上に重ねる航空写真を選び、右上の[機能]→[ツール]→[印刷]から画像の保存・印刷ができます。
とくに災害状況下の航空写真が豊富ですが、単にプレゼン用に航空写真をダウンロードしたいだけでも十分有用です。
使い方はコチラから。アクセスランキングも公開されています。
何の加工もされてないプレーンな航空写真は意外と使い勝手がいいので一度覗いておくと良いですよ。
画像は京都市全域の航空写真。
ここまで広域でプレーンな航空写真をただで入手できる。
素晴らしい時代ですね。
ちなみに、航空写真の利用としては以下のサービスも
こちらも上記と同様航空写真をダウンロードできます。
違いとしては、上と違い細かく分割された航空写真が多いものの、様々な時代の航空写真や地図が閲覧できる点。
設計敷地が昭和から現代に至るまで、どのような変遷を経て成立したのかをプレゼンしたりするときに便利だと思います。
6.RESAS
(写真はRESASによって東京都およびその周辺の人口動向を表したもの)
地方創生が叫ばれる昨今、客観的な数字を元にした論理的な創生戦略を練るためには人工や産業や観光におけるデータの解析が必須です。
そして各種企業や行政庁の作成した統計データが、統計学の知識やプログラミングのスキル無しに扱える、それがこのRESASです。
このソフトがない時代も、各種統計データは行政から無料でダウンロードできましたが、脆弱な検索機能と役所内の事情で作られた迷路のようなサイト構成が大きな壁となり、ほしいデータを見つけ出すことが困難な状況にありました。
RESASはサイト登録や閲覧専用ソフトのダウンロードすら必要なく、実に手軽に各地域の経済・産業・人口の増減・割合・強みと弱みを可視化できます。
このソフトが有れば、これまでなんとなく「外国人観光客が増えているらしい」「うちの県は中小企業が盛んらしい」程度の根拠だった地域分析に、具体的な数字に基づくグラフやダイアグラムを載せることが可能となります。
▼関連書籍
7.古地図コレクション
ある土地がかつてどのような姿をしていたのかと言うのは、時に非常に重要なファクターとなります。
このサイトでは国土地理院の所有している学術研究用の古地図が約300点収録されています。
地方都市だと収録されている地図も少ないですが、東京や京都などの主要都市であれば有用な地図もあります。
解説つきで高精細な画像がダウンロードできるので、覚えておいて損はないと思います。
サイトは随時追加予定
もしあなたが発見した便利なサイトが有りましたらぜひご一報ください。
関連記事
▼イラレ・フォトショ・各種CAD 建築学科生向けソフトの一覧はこちら
お久しぶりです。いつもブログ更新楽しみにしております。
最近、建築物(または内装の椅子や家具など)の実測をしようと思っているのですが、レーザー実測機とかは便利なのでしょうか?また、その他あったらいいな(巻尺の長さやメーカーなど)というものがあれば教えてください(≧∀≦)ノ
コメントありがとうございます。
ご質問の答えですが、初めて行うのであれば高価な測量機器を買う前にメジャーや身体尺で体を動かして測量する方が勉強になると思います。
詳しい回答は近日中に記事の形でお答えいたしますので今しばしお待ちください。
お言葉ですが、むかしから周辺環境と建築は強い関係性を持ち、全ての街などでその環境にあった建物を作られてきました。あの有名なA先生が作るようなシンボリックでどこの場所に建てても成り立つようなものが、間違えていると言えるでしょう。
〉某建築学科生様
ご指摘の通り、建築家は昔からその土地に寄り添って建物を建ててきました。逆に、世界全体で通用する均質な建築を推進する時代や、各建築家の個性を重視した作家性ありきの建築がブームになった時代もかつてはありましたが。(今もその影響は消えてないでしょう。)
その是非を論じるのは本ブログの主題から離れるので割愛しますが、某建築学科生様の指摘する「周辺環境と建築の強い関係性」を捉える力が、いま一度今日の建築学科生に求められているのは間違い無さそうです。
ところが、そうした周辺環境を読み解く上で必須なはずの地図の入手に苦労している学生が多いと感じたのが今回の記事の執筆動機です。この記事がその土地、その町に寄り添った建築を設計する一助になれば幸いです。