はじめに、設計系のバイトやインターンを、大きく3つに分類してみる。
- 小規模事務所でのアルバイト・インターン
- 大手事務所でのアルバイト
- 大手事務所でのインターン
この記事では、これらの性質の違いに触れ、それぞれのメリット・デメリットを提示した上で、どのようにすればその事務所に勤務できるかを、正社員までの道のりも視野に考察する。
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アトリエ系設計事務所でのアルバイト・インターン
建築家が経営する設計事務所のうち、特に建築家個人の作家性が強く反映される事務所のことをアトリエ系設計事務所と呼ぶ。
そして、建築学生が言う「設計事務所でのアルバイト」とは、多くの場合こうした小規模なアトリエ系事務所でのアルバイトやインターン活動を意味している。
企業の経営者とスタッフという関係以上に、師弟関係・徒弟制度のそれに近い関係性となる。
業務内容
給料が低い。
(これでも20年まえに比べれば天国のように改善された……)
アルバイトはともかく、インターン・オープンデスクであれば、無給が常態化している。
そのアルバイトも、最低賃金基準をギリギリ(もしくはぶっちぎりで)下回っている事務所が多いので、他の稼ぎのいいバイトとは言えない。
お金を稼ぎたい!
というのが目的なのであれば、残念ながらアトリエ系設計事務所でのアルバイトは不適切だ。
それでも設計事務所の門をたたく学生が毎年現れるのは、設計事務所が設計教育の予備校のとして機能しているからだ。
設計事務所でアルバイトをしている学生にその目的を尋ねれば、10人に9人は
- 「勉強のために」
- 「経験を得るために」
- 「将来の独立のために」
などと答えるだろう。
実際、実際の竣工現場に連れて行ってもらったり、所員同士の打ち合わせに同席できたり、企画設計を任せて貰えるといった、より実務に近い業務を体験できるのが、小規模設計事務所インターンの強みである。
というより現在の設計事務所インターン制度は、実務的な指導力が不足している大学の設計教育をかなりの部分において補完している。
ようするに、「建築設計」を学ぶ上では、設計事務所でのバイトやインターン、社員経験が必須ということだ。
この状況をある人は
「賃金も払わず、正社員並みの仕事を押し付けている状況」
と非難する。
またある人はこの状況を指して
「授業料なしで、実務に関するスキルや経験を得られる環境」
と肯定的に捉えている。
そのどちらにも理があり、設計事務所におけるインターン問題は建築業界においては常に論争のタネだ。
学生がインターン搾取されるような状況は許し難い。
しかし現状のインターン制度を廃止すれば、これまでの日本の設計教育を支えてきた人材育成システムを失うこととなる。
結果、現状を改善するめどは立たず、設計事務所における学生の処遇は、各事務所の運営手腕や裁量に任されているのが現状である。
就活への影響
アトリエ系設計事務所の就活・正社員採用というのは、一般的な大手企業と違い、就活解禁や内定という概念があまりない。
まず小規模な事務所の採用活動とは、不定期で行われるのが普通である。
しかもその採用は、能力をある程度把握できている事務所アルバイトスタッフの中から選ばれる。
つまり、将来設計事務所への採用を考えている場合、卒業までにその設計事務所でアルバイトスタッフやインターンスタッフとしての採用経験があることが、事実上必須ということになる。
もちろん、 アルバイトとして働いたことがあるからと言って、それはそのまま正社員として採用されることと同義ではない。
インターンをしたからといってその事務所へ確実に採用されるとは限らないし、
インターンをしたからといってその事務所への入所が義務になるわけでもない。
就業方法
まずはどのような事務所に所属したいかを検討するところから始める。
所属したい事務所がある。
「ぜひ所属したい!」という希望の設計事務所があるのであれば、その設計事務所の公式ホームページから「採用情報」「STAFF」「RECRUIT」などの欄をチェックする。
運が良ければ不定期でのアルバイト募集がかかっているかもしれないし、中には通年で採用している事務所ある。
その建築家がTwitterやFacebookを利用しているのであれば、求人情報がまわってくることもあるのでそちらの登録も必須である。
特に目指している事務所がない
アーキテクチャーフォト ジョブボードや A-workerなどの、設計事務所に特化した求人サイトから仕事を探すのが一般的である。
その中から地域検索から自宅・大学の通勤圏内にある設計事務所のアルバイト・インターン募集を探せばいい。
(どちらのサイトも正社員の採用や派遣がメインだが、この世にどんな事務所があるのかを探すには役に立つ)
あるいは最終手段として、建築系雑誌のバックナンバーを図書館で片っ端から当たり、自分の自宅近所に拠点を構える事務所を調べまくるという方法もある。
いずれかの方法で目当ての事務所を見つけたら、申し込みを行う。
申し込みは、
- 事務所HPのrecruit formから
- 事務所のメール
- 事務所の電話
- 直接会いに行く
など。
アトリエ系事務所のインターン採用は大手企業のインターン採用と異なり、ほとんどの場合無審査に近い形で採用されることが多いので警戒する必要はない。
もちろんアトリエ系と言っても100人を超える大所帯の超有名事務所になると話は別だろうが……
服装は比較的自由。
スーツで行くとむしろ引かれる可能性が高い。
迷うくらいなら「ユニクロや無印の白シャツに黒デニム、スニーカー」くらいの無難な格好で大丈夫である。(絶対に向こうは気にしない。)
面接や面談が設けられることが多いので、履歴書くらいは用意しておく。(コンビニに売っている普通ので十分)
- 「大学では何を勉強してきたの?」
- 「好きな建築家は?」
- 「どうしてこの事務所を選んだの?」
くらいは聞かれると思うが、
「まだ〇回生なので右も左もわからない。とにかく実務の空気に触れたくて、通学圏内にあるこの事務所に応募した。」
くらいの志望理由でも多分採用される。
ただし、可能ならポートフォリオの準備はしておくと良い。
ポートフォリオは設計力やアイデア力があるに越したことはないが、それよりも模型写真とCADによる図面を可能な限りたくさん載せ、製作スキルを示しておく。
まだ一回生や二回生で、課題が始まってなかったり、作品に自信がない人は、下記ページの書籍などを購入し、名作住宅の図面模写と模型作成を行なってそれをアピールする。
▼アマゾン・書店で買える名作住宅の図面集はこちら
▼模型作成の指南書はこちら
www.gakka-gokko.com
PCスキルについては、「CADはどの程度使える?」と問われた時、
「渡された実施図面データから必要な線を拾い、自力で模型図面を起こせるくらいは出来ます」
と答えれば喜ばれると思う。
その事務所で使われているソフトの種類がわかるのであれば、事前に勉強しておいた方が好ましい。
使用ソフトがわからない時は、普及率が最も高いauto CAD LT(学生版は無料)をダウンロードして、上記の水準を目指して練習しておく。
▼有名設計事務所のうち、利用CADを公開している事務所一覧
▼各種CADについての概要・比較・ダウンロード方法はこちら
注意点
まれに、一級建築士資格を所持していないにもかかわらず、事務所を構えている 建築家がいる。
不幸にもこうしたモグリの事務所で働いてしまうと、建築士試験の受験条件である実務経験に該当しなくなったり、インターンの単位互換制度が適応されなかったりする。
大手ゼネコン・大手設計事務所でのアルバイト
TVでCMをうつような大規模な設計事務所・大手ゼネコンでのアルバイトも存在する。
模型作成として募集されることが多い他、名刺入力や員数表作成などの事務補助などの仕事もある。
業務内容
時給はまとも、長期で入れる上に、その企業への就活の近道なることから人気が高い。
その分、前述のアトリエ系へのアルバイト採用に比べ、大手事務所へのアルバイト採用は難易度が上がる。
というのもこうした大手事務所のアルバイトは、その多くが先輩や教授による紹介での採用がほとんどだからだ。
だから同じサークルの先輩がたまたま設計事務所に勤務している、ゼミの教授が設計事務所の社員と仲がいい、などのつながりが必要になる。
そもそもそれ以上に、ゼネコンや設計事務所の本社支社がその大学や自宅の通学圏内になければならないので、地方大学の学生には不利である。
また、小規模事務所に比したデメリットとして、業務が単純作業になりがちな点を指摘できる。
教育的意義の強いアトリエ系への就労にくらべ、大企業でのアルバイトは本当に賃労働でしかないことも多い。
組織としての規模が大きければ大きいほど収益の出し方が固定的・マニュアル的になりやすく、個々人のスペックに依存しない属人性が低い業務が多くなるからだ。
加えて、個人設計事務所に比べて取り扱う物件の規模も大きくなりやすく、学生がなにかを提案できる隙が生じにくい。
平たくいえば、模型作成、プレゼン資料作成、図面の数量拾い、事務補助など「言われたことを言われた通りにやる」業務が非常に多い。
就活への影響
実際に正社員に混じり、同じ空間で勤務するため交流も生まれやすく、短期的なインターンよりはるかに職場の雰囲気を感じ取りやすい。
アルバイト中に、インターンやイベントの情報が回ってくることもあるため、そのまま正社員採用されるまでの近道になる。
就業方法
大手ゼネコンや組織設計事務所へ就業できるか否かは、自分の大学の先輩や教授に、付き合いのある人がどの程度いるのかに大きく依存する。
その上で、先輩からのお誘いや、同級生から回ってくる「先輩が〇〇事務所でのアルバイトを探しています」という募集をただ待つしか無い。
つまり、あなたが在籍している大学が、「そういう大学」でなければ話が回ってこない。
三年次編入や大学院での編入を検討するか(実際学歴ロンダリングは大企業就職への大きな近道である)、建築系インカレサークルなどを駆使して人脈を広げるしかない。
よってこの記事にて書けるアドバイスは、まぁほとんどない。
どうしても大手企業で働く糸口が欲しい人は、次項にて解説する長期休暇中のインターンに採用されることを祈る。
▼就職に有利な大学の探し方については下記記事参照
大手ゼネコン・設計事務所でのインターン
新卒一括採用を行なっているような大企業は、夏休みや冬休み、就活シーズン直前になると各種リクルートサイトを通じて短期間(1日〜2週間)のインターンシップを開催する。
業務内容
形式としては、セミナーや職場体験、ワークショップに近い物が多く、そのほとんどが1日〜2週間程度で完結する。
内容も、建築家としてのスキルや、学業に寄与する知識などは得られない。
というのもこうしたインターンは、単にその企業への入社を目指す学生のために開かれているからだ。
よって内容としては、アルバイトよりも、1日~2週間かけて行われる本格的な会社説明会や面接、すなわち採用活動の一環と捉えたほうがいい。
つまり上記2つのインターンやアルバイトと異なり、完全に当該企業への就職に向けた制度である。
その企業に入る気がない人にしてみれば何の価値もないし、
その企業入社したい人にとっては絶大な意味を持つ。
特に、地方の学生や、業界へのコネクションの薄い地方大学に通う学生が大企業に勤務することを希望する場合、この手のインターンシップは生命線になる。
就活への影響
なぜここまで大企業が大規模な採用活動を行うかといえば、それは「辞めない学生を採用したいから」だ。
はっきり言って大企業は、「優秀な学生」より、「辞めない学生」を雇いたがっている。
大企業はアトリエ設計事務所と違い、新卒社員のうちからまとまった賃金をだしている。
教育コストを差し引いても、去年まで学生だった数十人数百人の新入社員に、月20万円の人件費を出せば間違いなく赤字だろう。
学生時代どれほど優秀であったとしても、新卒が大企業で給料分の利益を出すことなど不可能なのだから。
それでも大企業が新卒に給料を出しているのは、新卒で大量の学生を採用し、それを長期的に育てなければ、大規模で高度なプロジェクトを扱える人材に育たないからだ。
逆にいえば、すぐに辞めてしまう学生を採用することは、無能な学生を雇う以上に会社にとって致命的なダメージとなる。
だから採用担当者は、能力の高い学生以上に、「この学生ならやめることはないだろう」という安心材料のある学生を探している。
実際に学生と一緒に働いたことのある社員からの肯定的な評価や、職場の空気に触れた上でそれでも会社を応募してくれたという点は、学校での成績やコンペでの実績以上に重要な判断材料となる。
話をインターンに戻す。
つまるところ長期休暇を利用したインターンの本質は、こうした「この学生は辞めない」「この企業なら長く働ける」というすり合わせの機会である。
学生はインターンを通じて、その企業の職務分掌や進行プロジェクトの状況を把握する。
その情報は、自分が採用された後どの部署でどのような業務を担当するのかを、人事担当者に想像させる材料となる。
「この学生は〇〇課の⚫︎⚫︎さんが欲しがりそうだな」
「今年度から始まった〇〇プロジェクト、この学生の活動と親和性が高いな」
この解像度で採用後をイメージ出来る学生は、企業としても採用しやすいだろう。
こうしたマッチングのために、企業の短期インターンは開催される。
大企業の就職活動が情報戦と呼ばれる所以は、このあたりにある。
就業方法
大企業への就活は、インターン採用・正社員採用ともに死にゲー・運ゲー・覚えゲーである。
要するに、失敗を繰り返しながら地道に成功確率を上げていくのが最善の戦略となる。
自己分析や企業分析が大切とよく言われるが、実際にESを書いて書類審査で突き返される以上の自己分析はこの世にないし、複数社の面接を受けて面接官の言葉や対応を比べる以上の企業分析は存在しない。
繰り返し挑むほど、自分のアピールポイントや適性が見えてくるので、興味のある人は一回生のうちから挑むのがいい。
具体的なノウハウは、大企業へのインターン採用に関する書籍が掃いて捨てるほど流通に出回っているので、基本はその内容を参考にすること。
筆者は大企業への就活適性が致命的に無かったので、このサイトで教えられることはほとんどない。
設計事務所で働く目的
上記の通り、一口に設計事務所でのアルバイトと言ってもその形態は様々である。
一方で、設計事務所でバイトをしたいと考える理由もまた、人によって異なるだろう。
例えば、下記の3つの目的を同時に満たすバイト先を見つけることは非常に難しい。
- 賃金収入のため
- その企業への就職活動として
- 設計業務の学習のため
だから、インターンやアルバイトの業態の差異を具体的に意識して勤務先を選ばないと痛い目を見る。
なのでバイト先探しにあたっては、そのバイトに求める目的の優先順位をつけておく必要がある。
例えばあなたが、建築家としての独立を夢見ており、一日も早くその実力をつけることが目的であれば、
- 打ち合わせに同席
- 施工現場に同行
- 基本設計の補助
などを様々な仕事を任せてもらえそうな、「従業員数は少ないが竣工件数は多い事務所」を探すべきだし、その場合は、
- 賃金の多寡
- その事務所への正社員採用の可能性
は不問とした方が事務所選びの基準がぶれなくなる。
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