建築学科ごっことは?

設計事務所のアルバイト・インターンで、建築学生に任される仕事

この記事は、

  • 中国の超高級ホテルの内装とかも手掛ける、大手のインテリアデザイン会社
  • 地方都市で木造住宅やそのリノベーションを中心に手掛ける、硬派な建築設計事務所
  • ライノとかプログラミングとかぶん回す、テクニカルな建築デザイン事務所

でのアルバイト・インターンを経験した筆者による、設計事務所でアルバイトした時に任されがちな仕事内容の紹介記事です。

建築学生にとって設計事務所でのアルバイトというのは、4年間で一度くらいは勤務を考える、一番スタンダードな建築学生のバイト先だと思います。

しかしネットで調べれば、「給料が低い」だの「やりがい搾取」だの「あんなのはドMの行くところ」だの、罵詈雑言のオンパレード。

実際こうした悪評は、あながち嘘でもデマでもデタラメでもなく、

  • カフェバイトと違って異性との出会いも期待できなければ、
  • 居酒屋バイトみたいに美味い賄いが出るわけでもなし、
  • 入力バイトのように他人と喋らず黙々とできるわけでもないし
  • 家庭教師のような給料の高さなんて夢のまた夢、

という側面があるのは、設計事務所バイトの嘘偽らざる事実かもしれません。

加えてゼネコンや設計事務所でのアルバイトというのは、接客や塾講師のアルバイトと違って、具体的に何をさせられるか、実際に見に行くことができない分不透明な職場と言えるでしょう。

そのため、なんだかんだで未経験の学生がいきなり応募するのは勇気のいるバイト先かと思います。ネットの評判が悪いならなおさらでしょう。

というわけで、タイトルの通りです。

この記事では、建築設計事務所でのよくある仕事内容をなるべく具体的に紹介しつつ、設計事務所で働くことのメリットを語ることで、これから建築設計事務所でアルバイト・インターンをしたいと考えている建築学生の不安を少しでも和らげることを目指したいと思います。

▼設計事務所で働くまでの手順はこちら

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1.企画調査

クライアントから依頼が来てから、実際に図面を書き始めるまでの期間のしごとです。

設計を始めるにあたっての情報収集のような仕事が多く発生するので、それが学生の主な仕事になります。

先行事例の研究

プロジェクトのスタート時に、取り組む建物に近い条件や機能を備えた事例を、ネットや雑誌や書籍から探してきてコピー・スキャンしてまとめたりする仕事です。

「セカンドハウスの依頼が来たから、平屋で眺望のいいセカンドハウスの事例を住宅特集から探してきて、その名称と設計者と住所と敷地面積と掲載ページ数をEXCELでまとめて」

とか

「バーカウンターのあるオフィスの写真を、可能な限りネットで探してフォルダ別に画像を保存しつつ、会社名と設計者と掲載サイトのURLを一覧にしてPDFにしてまとめて」

とか

「雑誌の原稿書くから、過去5年のバックナンバーからBIMに関して言及のあるインタビューを探して、ふせん貼っといて」

みたいな要望に応える感じです。

敷地調査・実測作業

特にリノベーションや古民家再生案件で、既存建築の図面が遺失している場合、その建物の実測調査を行うことになります。

建物の実測調査というのは、小規模な町家でも半日以上かかる作業ですが、人出が多いほうが短時間で終わるため、結構学生が駆り出されます。

具体的なやり方は社員の方から指示があると思うので、とくに事前準備とかはいらないはずです。

ただし、事前に授業などで建物の実測作業を行った経験があるに越したことはないでしょう。

特に高さ方向(平面図・断面図用の寸法)は平面に比べて測量が難しく、慣れが必要です。

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敷地図面の作成・ダウンロード

対象となる敷地の地図情報を、国土地理院などのHPからダウンロードして、IllustratorやCADソフトで書き起こし、スケッチや敷地模型作成の準備を整える仕事です。

ダウンロードしたデータは、そのままでは情報量が多すぎたり線がつながっていなかったり、最新の道路事情を反映していなかったりするので、そのあたりの細かい修正も必要になります。

このブログでも紹介している基盤地図情報ビューアやVector Map Makerなど、地図情報をダウンロードしてとりあつかう経験があると、スムーズに処理出来ると思います。

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また、そのダウンロードしたGISデータやdxfデータを編集するCAD・Illustratorソフトが使えたほうがいいと思います。

ただ事務所や案件によっては、ゼンリンの地図を拡大して貼り付けるとか、航空写真をIllustratorでトレスするとか、力技での解決が必要になるかもしれません。

基本的には事務所のやり方があるはずなので、その指示に従ってやりましょう。

2.建築設計

与条件が整理でき、設計を開始してからプレゼンに到るまでのフェーズです。

主に模型製作や図面の修正に関する仕事を任されることになります。

模型製作

一口に模型作成と言っても

  • 敷地模型製作
  • ボリューム模型製作
  • 社内プレゼン用模型作成
  • 社外プレゼン用模型作成
  • 家具・添景模型製作

 など様々なパターンがあります。

この辺は普段の設計課題やら卒業設計のお手伝いで実感あると思いますし、業務内容が想像しやすいので割愛します。

添景データのダウンロード・作成

パース作成や図面作成の際には、さまざまな配布データを利用します。

人物・樹木・家具など、空間を生き生きとさせる添景素材、

質感を出すための木目や草原のテクスチャ素材、

建物を引き立たせる町並みや青空と言った背景素材。

あるいは、自社製品のCADデータや3DデータをHPで公開している家具・建材・設備メーカーも多いです。

設計事務所では、こうした膨大なデータを日々ダウンロードし、利用しています。

▼人物・樹木・背景の写真データ配布サイトまとめ 

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▼人物・樹木・家具などのイラスト・シルエット・図面データ配布サイトまとめ

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しかしこういったデータは二重三重のフォルダに格納されていて使うのが煩雑だったり、ファイル名が適当でどんな素材かがひと目でわかりにくかったり、無駄に解像度が高すぎてデータを重くしたりと、ダウンロードしたばかりでは使いにくいことも多いものです。

場合によっては複数の素材を組み合わせたり、事務所周辺の写真を取ってきて自作したり、手書きでオリジナルの人物シルエットを作成するケースもあります。

こうしたデータを一つ一つ解凍してフォルダ内に整理し、時にはリサイズや背景透過などの加工をPhotoshopで施し、社員の人たちがスムーズにデータを扱える状況を整えるのも、アルバイトの役割の一つです。

あとPhotoshopの使いに長けていると、作業を効率化できる面はあります。

例えば大量のデータをリサイズする作業とかは、Photoshopのアクション機能で自動化できたりするので、余力のある人は覚えておくといいかも知れません。

あまりスキルを要求される仕事とは言えませんが、プロがどのような方法で添景データを入手しているのかが見えるのは、若干日々の課題製作にプラスになるかも知れません。

模型用図面作成

設計図面のCADデータを渡されて、そこから必要な寸法を抜き出しつつ、模型用の図面を作成する仕事です。

実際の建物の図面と、模型製作用の図面は、いろんな点において修正が必要なので、その調整を行います。

例えば現実世界で200mmの壁は、S=1/100の模型では2mmに、S=1/50の模型では4mmになります。

すると後者の場合、4mm厚のスチレンボードというのは一般的ではないため、3mmのボードで代用するとか、2mmのボードを張り合わせて再現するとか、材料に合わせた工夫が必要になります。

このように建築の寸法は、模型化すると細部の寸法や収まりが微妙に変化せざるを得ません。

つまり模型作成のためには、模型用の図面を作る必要があるのです。

これもまた、学生に回されがちな仕事だと思います。

また番外編として、3Dプリンターでの出力やレーザーカッターでの出力用に、既存図面や既存3Dモデルを修正する作業というのもあります。 

今はこうしたデジタルファブリケーション技術を取り入れている事務所も少ないですが、将来的にこうした作業は学生アルバイトの仕事の一つになる可能性は高いと思います。

基本的にはその事務所で使われているCAD・モデリングソフトのスキルが求められます。

ただし、新規モデルを0から立ち上げる作業に比べれば難易度は低いため、CAD未経験でもそんなに心配する必要はありません。

員数表作成・数量拾い

実施図面から、特定の建具や建材や設備や家具の数をカウントし、どの家具がどの部屋にいくつあって、その価格と寸法はどのくらいで、販売元はどこなのか?みたいな情報をExcelにまとめる仕事です。

大学の課題と違い、材料やコストを考えなければならないゆえに発生する作業です。

あんまり楽しい作業ではありませんが、その事務所でよく使われる照明器具とか椅子のメーカーとかの勉強にはなると思います。

保管資料の整理・検索

だいたいどこの事務所にも大量の本や資料が保管されているものです。

例えば、その事務所の過去に取り扱った案件の図面や契約書のファイリング。

例えば、新建築を始めとする建築・住宅・不動産系の業界紙。

例えば、大量の家具・内外装材・建材・設備商品のカタログ。

こういう資料は普通の本と違って、古くなったものを処分したり、時系列順に整理したり、新しく追加の資料をまとめ直したりと、細々とした管理が必要だったりするものなので、それを任されます。

運がいいと、いらない家具のカタログとかもらえます。海外のメーカーのカタログは、掲載されている写真がかっこいいので、地味に嬉しかったのを覚えています。

その他、社員の人が貼った付箋をプロジェクト終了時に全部剥がしたり、「この案件で使う椅子を探してるから、白くてシンプルだけど高級感があって、予算○万円以下の椅子候補を50個くらい探して。」という指示を元に片っ端から資料をめくったりするのも、学生バイトの仕事です。

設計補佐

事務所の方針や案件の難易度、あなたの技量にもよりますが、基本設計ぐらいの仕事であれば学生にも任せてもらえることがあります。

特に住宅・店舗など小規模な設計の方が任してもらいやすいでしょうね。

逆に組織設計事務所とかゼネコンとかになると、そもそも案件の規模がでかすぎて学生では太刀打ちできなくなるので難しいかも知れません。

その他、コンペ案のたたき台づくりとか、広告代理店やデザイン事務所から依頼される架空建築のパース作成とか、そういうアンビルトなものも任せてもらいやすい設計です。

3.工事監理

工事監理の立ち会い

これは勤務内容というよりは見学に近いものですが、建物の建設現場や竣工直後の内装を見せてもらえるというやつです。

正直実施設計や施工管理の知識に乏しい学生が、現場を見たところで「おー」とか「ふーん」と唸るくらいしかすることが無いのですが、

「現場を見たことがある」

というのは、学生にとって言語化し難い財産になるので、誘われたらぜひ行くことをおすすめします。

ただバイトではあんまり連れて行ってもらえないかも。インターンのほうが参加できる可能性が高いです。なにせ「仕事」ではないので。

設計事務所バイトのいいところ

設計事務所ってブラックバイトなの?

すこし昔話をします。

僕が大学に入学して初めて働いた、居酒屋バイトの話です。

殺人的に忙しい飲食店*1で働いたことのある方なら理解していただけると思うのですが、居酒屋のホールバイトというのは秒単位で優先度が入れ替わるタスクを、的確な順番と手順で処理していき、すこしでもそれをミスると店長か酔っぱらい客からお叱りを食らうという大変ストレスの貯まる職場です。

おまけに、業務のオペレーションはほとんど徹底的に効率化されているので、バイトちゃんが口出しして改善できるポイントや、自主性を発揮していい思いを出来るポイントなんて言うのはほとんど無いわけです。

で、筆者はこの飲食店のバイトというものにほとんど適正が有りませんでした。 

開始3日目で早くも働くのが嫌になった当時の筆者は、

「シフトに入るたびに、HUNTER×HUNTERの単行本を一冊買う」

というご褒美システムを採用し、半泣きになりながらシフトに入っていました。

その後、結局そのバイトは一ヶ月半でやめてしまいました。

理由はもちろん、HUNTER×HUNTERが全巻揃ったからです。

(あの時買ったのがこち亀でなくて本当に良かったと思います。)

話を設計事務所のバイトに戻しましょう。

誤解を恐れずに言えば、設計事務所でのバイトって、他のアルバイトに比較してもすごい「ゆるい」ことが多いです。

もちろんこれが正社員として設計事務所で働くのであれば、人様のお金や人生を預かる立場なのでまた違うのだと思います。

しかし少なくともバイトの身分なら、怒鳴られるほど建築家の先生から怒られることもありませんし、客から理不尽なクレームを受けることも、徹夜してプレゼン準備を整える必要もありません。

記事冒頭でボロクソにこき下ろした設計事務所でのバイトですが、冷静に考えてみれば

  • カフェバイトのような殺人的な忙しさも無ければ
  • 居酒屋バイトのような理不尽怒られイベントも発生しないし
  • 入力作業バイトのような、自分が何者なのかわからなくなる単調さとも無縁

という感じで、正直筆者にとってそんなに悪い選択肢とは思えませんでした。

(家庭教師はやったことがないので割愛)

接客もしない、

重い荷物も持たなくていい、

冷暖房の効いた部屋で座っていられる、

風邪を引いても変わりのシフトを探さなくていい、

と言う具合に、ブラックバイトの条件をことごとく外れているんですよね。

もちろん給料は最低賃金すれすれ*2だったりするわけですが、

「こんなにゆったり作業ができる上に給料がもらえるのなら、この賃金でもありがたいわな」

というのが、個人的な感想でした。

設計事務所バイトって、勉強になるの?

あと設計事務所バイトの唯一のメリットとしてよく取り上げられるのが、

「建築学生にとって勉強になる」

という点ですが、これについては注意が必要です。

なぜなら前述のとおり、設計事務所のバイトというのは「ゆるい」です。

もっと身も蓋もない言い方をすれば「言われたことを言われたとおりにやっていればお金がもらえる」という側面が少なからずあったりします。

建築家はあなたの先生でもお母さんでもないので、具体的な目的意識の無いまま「なんか勉強になるだろう」くらいのやる気で飛び込んでも、上で解説したとおりの1ヶ月の雑用係で終わるだけです。

つまり建築事務所でのバイトが「勉強になる」か否かの分水嶺は、カタログの整理や先行事例のまとめ作成や家具模型の作成といった単調な作業の中で、なんとかしてあなた自身の強みや独創性をアピールし、より専門性のある仕事を社員の人から分けてもらえるか、という点にあるのです。

無論、設計や施工の現場を見れたり、大量の書類を整理することで知識をつけることができたり、ちょっとした企画設計を任せてもらえてプロ目線のアドバイスを貰えたりと、漫然と設計事務所に行くだけでも学べることは無くはないです。

 また、複数の事務所の状況を見ておくというのは、将来設計職に付きたい学生にとっては非常に重要です。

というのも、学生のうちにある程度いろんな事務所を見ておかないと、仮に将来あなたが新卒で設計事務所に入所した時、

  • 所長の権限が強すぎて所員の発言が事実上存在しない
  • 担当部署の異動が頻繁にあるせいで、設計実績を積みにくい
  • 勤務中、イヤホンつけたりお菓子を食べたりするのすら許されない
  • PCや通信やサーバー周りの設備が複雑すぎて、紙一枚印刷するのも手順が面倒

みたいなだめな事務所にうっかり入所した時に、それが初めて勤務する事務所だと「どこもこんなもんかな?」という感じで、その異常性に気づくことができないからです。

その意味においても、やはり設計事務所での勤務は「勉強」にはなると思います。

ただこの辺の事情は、結局は「将来建築家になることを目指している人」であるというのが大前提のメリットであって、そうでない人にとっても「学ぶことの多いバイト先か」というと、ちょっと微妙でなところがあるんじゃないでしょうか。

少なくとも、夏休みに一ヶ月程度バイトしたくらいでは、大学の設計課題の進行やクオリティが劇的に改善するようなスキルアップや、コンペティションの成績がワンランクががるようなドラスティックな経験が手に入るなんてイメージを持っていると、設計事務所でのバイトは「期待はずれ」になるんじゃないかとおもいます。

設計事務所バイトって、どうやって探すの?必要なスキルや資格はあるの?

 ▼こちらの記事を御覧ください。

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*1:年末の忘年会シーズンなどは、客の入店音の幻聴が聞こえてからが本番

*2:最低賃金を著しく下回る事務所は、所長の人格に問題があるか、事務所の経営がうまくいっていないかの2択なので、仮にお金に執着が無くても行かないほうがいいです。多分学べることなど何一つ無いはずなので。

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