「設計の進め方」を題材にした書籍はたくさんありますが、その中には実務家向けの専門的な内容で、学生には不向きな書籍も多いです。
一方で近年では、建築学生をターゲットとした設計指南書や学生の大学設計課題の流れをドキュメンタリー的にまとめた書籍、はじめて設計を試みる初心者に向けたハウツー本も多数発売されています。
この記事では、建築学生(特に新入生や2年生)を想定して執筆された、読みやすくて丁寧でわかりやすい「建築設計の方法」に関する書籍をまとめてみました。
内容としては、一つのプロジェクトに対し
- 課題の読み解き
- 敷地の調査
- ゾーニング・ボリュームスタディ
- 基本設計
- ディテールの検討
- プレゼンテーション
までの流れが網羅的に掲載されている書籍を選択しています。
エスキスとは?
本題に入る前に、前提知識として「エスキス」という用語を理解しておく必要があります。
もしあなたが入学したての学生で、「エスキス」という言葉を初めて聞いたのであれば、下記のページからその意味をある程度把握しておいてください。
エスキスの過程がまとめられた書籍紹介
上の記事でもまとめたとおり、エスキスには
- 教員や建築家の先生に案の良し悪しを相談すること
- スケッチや模型によって、一人で案を深めていくこと
の2つの意味があります。
よってこの記事でも、
- 設計課題の進め方に関する書籍
- 建築家の設計思考に関する書籍
の2項に分類して、書籍を紹介したいと思います。
設計課題の進め方に関する書籍
教員と学生の対話に注目した書籍。
- 学生はどのようにしてアイデアを形に落とし込んでいくのか
- そのとき教員はどのような視点から学生の設計を捉えているのか
という流れや思考を、学生目線と教員目線の両方から学べる。
『初めての建築設計ステップ・バイ・ステップ』(川北健雄ら)
- 出版社:彰国社
- 価格:2,724円
- (Amazonより)
初めて設計を学び始める神戸芸術工科大学の学生6人が、
「架空の多目的ホールを建てる」
という課題に対して、周辺敷地の調査を行い、建築の形態を考え、利用計画に頭を悩ませ、図面を引き、模型を作り、人々に発表するまでの、その一連の試行錯誤と悩みを追いかける形の書籍です。
建築設計の手順を
- 敷地を読む
- ヴォリュームで考える
- 機能を考える
- 空間の囲み方・支え方を考える
- 細部を考える
- プレゼンテーション
の前6章に分解して解説しているのですが、学生と教員の対話や、学生の試行錯誤の過程が細かく掲載されており、建築学生が普段製図室で何を作り何に頭を悩ませているかということが、建築学科志望の高校生や新入生にもよくわかる一冊と思います。
また、良くも悪くも掲載されている学生作品のレベルが高すぎない点もポイントです。
それはつまり我々にとって「等身大の悩み」が掲載されているという意味だからです。
課題の内容を具体的に知りたい時や初めて設計課題に取り組む際の、よき道標となる本だと思います。
『αスペース: 塚本由晴・坂牛卓のエスキスチェック』(坂牛卓+塚本由晴)
- 出版社:鹿島出版会
- 価格:1980円
- 内容紹介
- 設計指導の生の声を完全ドキュメント。課題は都市に開かれた「+α」の家。敷地は昭和な東京の町。開催はアルゼンチン、設計は国際混合チーム。建築は形じゃない! 動作を決めろ! αスペースの可能性を感じろ!
(Amazonより)
集合住宅の設計課題を題材に、設計を進めるノウハウを学ぶ。
どちらかといえば文章が多めな上、内容的にも高度で、一年生には不向き。
3年生以上の学生が、コンペやイベントで改めて住宅を設計することになったときに、役に立つかもしれない。
建築家の設計思考に関する書籍
次に紹介するのは、建築家が一つの建築を企画・計画・設計するまでの過程をまとめた書籍です。
建築家の作品集などを読むと、作品のコンセプトや設計にあたっての断片的な苦労話を読むことは出来ます。
しかし、一つのプロジェクトのはじめから終わりまでの試行錯誤の過程を詳らかにした文章やインタビューというものはあまりありません。
ここでは、
- 敷地に対して何を拠り所にゾーニングを決めるのか
- 動線計画とは、どのような手順で決定するものなのか
- 複数の設計案が対立したとき、それらをどのように取捨・止揚させるのか
といった意思決定の過程に注目した、それでいて学生でも読みやすい書籍を紹介します。
『間取りの方程式』(飯塚豊)
- 出版社:エクスナレッジ
- 価格:1980円
- 内容紹介
「住まいの解剖図鑑」「片づけの解剖図鑑」につづく、シリーズ第3弾!
「間取りという問題を解決に導く『方程式』を駆使しながら、ベテランの設計者たちは日々、
目の前の案件と格闘しています」(はじめにより)
心地よい空間づくり、暮らしを愉しくする間取りづくりに欠かせない「プロのやり方」を、
25の視点でセオリー化した、家づくりの“公式”ルールブック。
(Amazonより)
住宅設計系の書籍は、「良い住宅とは」という内容を散文的にをまとめた書籍や「玄関」「開口部」「風呂」のように、シーン別の納まりをまとめた書籍は数多くあります。
そんな中、本書は
- 間取りを決めるには、まず何から決めればいいのか
- それが決まれば、次は何を決めるのか
- それぞれの寸法は、どの程度が効率的かつ快適なのか
という設計の手順を、
- 愛嬌のある図版
- わかりやすいキャッチコピー
- シンプルに塗り分けられた間取り図
- 筆者が手掛けた豊富な住宅事例
によって、かなり具体的かつキャッチーに言語化している本書は、はじめて住宅設計課題に取り組む学生に是非オススメしたい一冊です。
(建築の専門家では無く、学生や「これから新しい家を持ちたい」と考えている一般向けの本であるため、専門用語も最低限に抑えられている。)
建築設計は、「あっちを立てればこっちが立たず」な局面も非常に多くあります。
そのため、初心者がなんの指針もなく住宅を設計すると、必ず設計が破綻します。
しかしこの本の手順に従えば、「けして奇抜ではないが、シンプルで住みよい家」を、よりスムーズに設計できるようになるでしょう。
「住宅設計課題は、この本を1ページ目からめくりながら、その指示に従えばとりあえず完成する」といっては、流石に言いすぎでしょうか?
『エスキスって何?』(小川 真樹ら)
- 出版社:彰国社
- 価格:2640円
- 内容紹介
エスキスって何
建築の授業でとりくむ「エスキス」は、多くの学生にとっては、建築学科に入ってからはじめてきく言葉であり、
何をするのかそもそもわからないということをきく。
エスキスには正解はない。
また建築にかかわるすべての行為はエスキスであり、設計につながっている。
なにかを調べたり、スケッチを描いたり、模型をつくったり、
そうした断片的な行為がつながり思考を深め、アイデアをまとめ、設計をブラッシュアップする。
本書はこうした「エスキス」へのさまざまなアプローチの方法を紹介し、考える手助けをする本である。
(Amazonより)
内容としては
- Chapter1 エスキスの準備体操
設計の上で前提知識となる、空間論や建築史を軽く解説 - Chapter2 エスキスの道具箱
スケッチ・模型作成・スケール感など、エスキスを進める上で重要になる技術や知識の紹介 - Chapter3 住宅のエスキス
130㎡程度の敷地における「アトリエ付きの住宅」の設計を実例に、敷地調査からゾーニング検討、環境計画、を経て完成に至る過程を紹介。緩やかな曲線屋根で進めていた案を一旦白紙にし、シンプルな間取りに変更するに至る思考が紹介されている点が特徴的。 - Chapter4 集合住宅のエスキス
300人程度を納める学生寮の設計を事例に、敷地調査からボリュームスタディ、平断面の検討を経てランドスケープに至るまでのデザイン過程を、多くの先行事例とともに紹介。
という構成です。
本書は前述の『ステップバイステップ』と同様、学生に向けて書かれたエスキス手順の解説書であり、そのため全体的に似た構成や雰囲気を持つ書籍可と思います。
両書の相違としては3つあります。
まず前者が「学生と教授との対話」の流れが強調されていたが、こちらはあくまで「一人で思考する」過程に重きが置かれている点です。
次に、『ステップバイステップ』が模型を中心に設計しているのに対し、こちらは主にスケッチやダイアグラムを軸に設計を進めている点でしょう。
もちろん両書とも、図面・スケッチ・模型を駆使してのエスキスを行っているのですが、何らかの事情であまり模型を頻繁に作れる環境にない学生にとっては、こちらの本がおすすめかもしれません。
そしてさらなる違いとして最終的に出来上がる成果物の質の差があります。「ステップバイステップ」は学生の作品なので、言ってしまえば最終的な設計案もさほど完成度が高くないのですが、こちらはプロによるエスキスが掲載されており、最後に出来上がるプランニングも模範的な内容になっています。
総合的に見れば、『ステップバイステップ』が、大学の課題の進め方に特化した書籍であるのに対し、本書はあくまで設計の進め方であるという評価ができるでしょう。
「エスキスシリーズ(全5巻)」
- 出版社:彰国社
- 価格:3520円(1巻)
- 内容紹介(1巻)
- 学校の建築を軸に話は展開する。いままでの学校は窮屈なものだった。すべての空間は、目的に1対1対対応していた。近年増えているオープンスクールは、フレキシビリティの確保はいいのだけれど、それが何の手掛かりもない茫洋とした空間につながってしまっている。では、子供たちがいきいきしている空間はどうやったら設計できるのかを考えることが始まりだった。テーマは学校にとどまらず、「部屋」と「廊下」の集合ではない空間のつくり方の事例を集めることで新しい建築の組み立て方を模索している。読むだけではなく、実際に設計をしているときに手元に置いて描き込みをしながら使われるスケッチブックのようなものになればと考えて出来たのがこの本だ。
(Amazonより)
【執筆中】
「PLOTシリーズ(全8巻)」
巨匠とも呼ぶべき、現代の有名設計事務所の設計プロセスを追いかけた書籍です。
いずれも一冊に3-5作品が収録されており、それぞれの設計初期段階から、施工方法の検討までの流れがインタビュー形式で書かれています。
豊富な図版は見ているだけで楽しいのですが、半面内容的には専門用語や固有名詞も多く、一回生向けとは言い難い点は留意が必要です。
どちらかといえば、その作家が好きで過去作品もある程度把握している学生や、企画設計から構造・設備・施工までの流れなども知りたい実務家向けのシリーズとして位置づけられるかもしれません。
これまでに紹介してきた書籍に満足できなくなってきた方は、ぜひ御覧ください。
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