建築模型の写真撮影って、いまいちどうすればいいかよくわかんないですよね。
その理由の一つは、素人くさい退屈な模型写真というものの大半は、具体的にどこが駄目でどこが退屈なのか明白でないことが多いからです。
人間の審美眼というのは極めて正確かつ曖昧です。
目的のはっきりしない写真を見た時に、かなり高い精度で違和感を掴み取るだけの感度を持っていながら、具体的にどこが問題なのかを検出する能力は極めて低く出来ています。
これは建築学科生のようなアマチュア写真家にとって極めて不利な条件です。
自分の写真に欠点があることを自他共に認識しているのに、どこに欠点があるか判らないのでは効果的な改善が行えるはずもありませんし、精神衛生上も好ましくありません。
だからこそ、写真を撮影する側の人間は、ある写真を見た時に「この写真のここが(自分的には)不適当だ」と言語化出来る自分なりの基準が必要なのです。
僕はカメラに詳しいわけではないので撮影技術に関して語る権利も能力も多分ありません。
しかし、流石に建築学科に在籍して何年も模型作りやプレゼンボードづくりをやっていると、独学・我流なりの発見が生まれます。
撮影する前に気をつける注意点・コツもいくつか生まれますし、画像をレイアウトする前から「この写真は使えなさそう」という負の審美眼が育ってきます。
そこで今回は構図・照明・背景の3つを軸に、素人くさい模型写真を回避するために個人的に気をつけているポイントを紹介したいと思います。
模型写真でいちばん大切なのは?
冒頭でも書いた通り、写真撮影初心者にとって最初の関門は
どのような写真が良い写真でどのような写真が良くない写真か?
という自分なりの基準や軸を持つことです。
例えば僕は、あらゆる模型写真は目的別に「実景的模型写真」と「ジオラマ的模型写真」の2つに分けることが出来ると考えています。
●実景的模型写真
建物が実現したときの風景をイメージさせるもの(主観的情報)
まだ完成しない建物が実際に建てられた時に利用者からどのようにみえるのかをイメージさせる模型写真です。
そのため、あたかも自分が小人になって模型の中に入り込んだかのような、より風景写真に近い写真になることが目標です。
●ジオラマ的模型写真
建物全体の形や構成を説明するためのもの(客観的情報)
図面やスケッチではわかりにくい建物全体の様子を客観的に伝えるための写真です。
物語性や面白みは少ないけれども建物全体を見渡せるような、より模型感を強調したイメージになるよう心がけています。
そして、プレゼン資料を作る際は、読み手に対して「建物を利用したときのイメージや雰囲気を掴んでほしいな」と考えれば前者の写真を使いますし、「建物全体の構成・全容を伝えたいな」と考えれば後者の写真を使います。
これが僕のいう目的を持って写真を撮るということの意味です。
もちろん、模型写真を撮る目的やその分類は人によって様々だと思います。
上記の「実景的/ジオラマ的」分類はあくまで個人的にわかりやすい・使いやすいと感じた分け方に過ぎません。
分類の論理的根拠もない、気がつけば自然に意識して撮影していたという類の直感的な分類なので、すべての写真がこうあるべきというような必然性や一般性のある話ではありません。
しかし、何のためにその模型写真を撮るのか?どのような意図を伝えたくて写真を撮るのかという自分なりの基準・目標を持つことは撮影に関する必然的かつ一般的な条件だと思います。
とは言え、いきなり写真を撮るには目的意識を持つことが大事だと言われてもピンとこない人のほうが多いと思います。
あなたが私淑する写真家の写真があれば、それのどこが気に入っているかを自問自答し続けるのも効果的です。
自分の作った模型を納得行くまで撮影し、紙面上にレイアウトして印刷することを繰り返すことで見えてくるものも多いと思います。
模型写真に限らずカメラの取扱いに関するノウハウを学び、町中の建築を撮って回ると模型写真の勉強だけでなく、設計の勉強にもなるでしょう。
どのような手法でもどのような分類でも、とにかく自分なりの判断基準を持つことが、「不正解な写真」を回避する第一歩となるはずです。
何れにせよ、この記事で伝えたいことは
「こう撮影すれば正しい写真になるよ」
という技術ではなく
「撮影の目的意識を持つことが大事だよ。ちなみに僕はこういう基準で撮影しているよ」
という主張だということをはじめに断っておきたいと思います。
では、それを踏まえた上で、我流ではありますが
「模型写真をより実景らしく」
「模型写真をよりジオラマらしく」
強調するための構図やライティング、背景の設定などの撮影技術・工夫・テクニックを紹介したいと思います。
構図
もっとも実景らしさ、ジオラマらしさが表れるのが写真の構図です。
当たり前ですが、模型にぐっと近づいて人間の目線で撮影すれば実景らしく、上からアクソメ図のように撮影すればジオラマらしくなります。
立面図のように真横から撮影した写真などは、人目線だけれども客観的な写真になりますし、山の上から眺めた姿が重要な建築であれば俯瞰構図の写真であっても実景のような写真になるでしょう。
また、ここでは詳しく述べませんが、「日の丸構図」や「三角構図」「三分割構図」のように写真の構図にはいくつかのセオリーがあるため、そういった構図を駆使し、主題となる被写体を強調することも重要なテクニックです。
それよりここでは建築模型写真特有のポイント、敷地模型の切り取り方について言及したいと思います。
無限に地平が続く現実の風景と異なり模型写真の敷地には端部が存在します。
模型写真、特に実際の写真のオルタナティブとして使う実景風模型写真の場合には、この敷地模型の端が映らないよう工夫しながら撮影する必要があります。
例えば人間目線の、建物を見上げるような構図の場合、敷地の切れ目は画面内に映らないので、より現実の風景に近い写真になります。
しかし、上から見下ろしたような構図で写真を取った時、かなり構図に気をつけないと敷地模型が途中で途切れているのが丸見えな写真になってしまいます。
このように敷地が途切れた写真*1はそのままでは使いづらいですよね。
実際の敷地の写真や手描きの背景と合成するか、大胆にトリミングする必要がでてきます。
いずれにしても、あまり使い勝手のいい写真とはいえませんね。
逆に、ジオラマ的に撮影するのであれば、敷地模型の4辺はきっちり見せたほうが、よりジオラマ感が出ます。
もちろん無理に途切れている断面を画面内に移す必要はありませんが、画面の一部が途切れるくらいなら、堂々と端部を移したほうが意図の明確な写真になります。
要するに、その写真は「建物の利用者目線」なのか、それとも「神の目線」なのか、それを意識して構図を決めましょうという話です。
背景
模型写真にとって背景は重要な要素の一つです。
提出前の雑然とした製図室が背景では折角の模型も締まりません。
基本的に背景処理の仕方は3パターンです。
- 背景紙やバックスクリーンを用意する。
- 絵になる背景を探し出し、そこで撮影する。
- Photoshop等で合成
一番スタンダートな解決策はやはり模型写真撮影用のバックペーパーやバックスクリーンを使うことです。
このバックスクリーン、A1サイズを超える大型の模型を作るのであれば幅3m近く、A4サイズの小規模な模型でも幅1m程度はほしいですが、個人でそこまで買い揃えるのは予算的にも空間的にも厳しいですよね。
家庭で撮影するだけなら文具屋に言って788×1091の模造紙で代用し、撮影のときだけ机の上に広げる簡易ブースが限界です。
共同で使う撮影室がある学校に入学するか、製図室の空いてる席を撮影スペースとして使うか、お金を出してスタジオを借りるくらいしかありません。
さて、バックスクリーンを使わない場合、次の解決策としては、背景として使える場所を探してそこで撮影する方法です。
大学内でおしゃれなスペースが有ればそこに模型を運んで撮影してみましょう。
うまく行けばセンスの光る味のある模型写真となります。
近場にそんな絵になる場所がないよ!という人も諦めるのは早いです。
日本全国どこでも利用できる代表的な模型写真背景は青空の活用を是非検討してみてください。
実際青空の下で模型写真を撮影することにこだわる建築家の人もいるほど太陽光のもとで撮影した模型写真には文章には出来ない魅力が生まれます。
太陽光が醸し出す複雑で柔らかな光によってより現実の風景らしくなるため、主観的な模型写真撮影にも適しています。
ただし、当然写真撮影が夜中や雨天だった場合には使えません。
また、一見均一に見える青空ですが、雲や太陽光にもパースが存在するため、上手に撮らないと崖に建っているような、空に向かって発進しているような不自然な構図になってしまうことがあります。
最後の手段はPhotoshop等の画像編集ソフトで後から背景を修正することです。
実際背景から被写体を切り抜き別の背景に合成すると言うのはPhotoshopの十八番とも
言える機能です。
ただし、背景を気にせず撮影出来ると言っても、工夫は必要です。
例えば上の写真のように、植栽がある場合や複雑な架構が特徴的な模型の場合、あるいは模型内に背景と同じ色が使われている場合、後々からPhotoshopで修正するのに手間や工夫が必要になります。
なので模型撮影の際に、切り抜きが難しそうなその部分だけでもダンボールや画用紙をおいて撮影すると、後々の切り抜き作業がぐっと楽になります。
Photoshopはあらゆる無理難題を解決してくれるソフトでもありますが、そのためには使う側の技量も求められてしまいます。
Photoshopマニアを目指すならいざしらず、建築学科生としては、撮影前の工夫と撮影後の加工にかかる労力を天秤にかけ、ここは撮影前に処理しておく、ここは後からPhotoshopで調整したほうが楽、と必要に応じて使い分けられることのほうが遥かに重要です。
照明・ライティング
模型写真でいまいちその重要性がわかりにくいのが照明・ライティングに関する知識です。
どうやらプロのカメラマンは照明機材の位置や光源の形に拘って撮影しているようですが、 なぜあそこまで物々しい機材を揃えて撮影しているのでしょう?
ライティングとは何に気を使えば良いのでしょう?
適切なライティングをした写真とそうでない写真の違いとは何なのでしょうか?
蛍光灯の光のもとで撮影した写真は何が駄目なのでしょうか?
ライティングの目的とは何なのでしょうか?
模型写真において光が果たす役割の一つは立体感を与えることです。
平面図に影を付け足すだけで立体感が出るように、模型写真でもメリハリの付いた影がつくことによって建物の形がはっきりと表れます。
メリハリとは、「明るい部分と暗い部分がはっきり別れていること」。
逆に言えば、多方向からの光によって影が消えるようなライティングをしてしまうと、陰影がのっぺりとした立体感のない写真となります。
というわけで理想のライティング条件その1とは一点の光源から放たれる光を浴びた、メリハリの付いたライティングということになります。
しかしここで一つ問題になるのが、くっきりした影をつけると影部分のデティールが潰れてしまうことです。
メリハリの効いた模型写真を作るためには強い点光源が必要ですが、強い光源では影になっている部分が真っ黒になり窓もドアもテクスチャも見えなくなってしまいます。
かといってさらに光を強めて影の部分を明るくすると、影の部分の凹凸は見えるようになるかもしれませんが、今度はハイライト部分に光が当たりすぎて白く飛んでしまいます。
黒く潰れたり白く飛んだりした写真もドラマチックな写真になるので1,2枚程度はあってもいいかもしれませんが、模型の外観を客観的に伝える写真には向きません。
「くっきりとした影をつけたい。でも影部分は適度に明るくあって欲しい」
このわがままを叶えるためには、どうしてももう一つ光源が必要になります。
リアル世界では太陽光は空気中のちりによる光の散乱や周辺ビルにあたった光の反射によって多様な光が生じています。
そのため何も考えずに風景写真を撮っても、建物の裏側まで光が回り込むため、そこまで陰影のくっきり分かれた写真にはなりません。
しかし、小さな撮影ブースと一つの照明ではそこまで多様な散乱光や反射光が生まれないため、建物の片面しか明かりの届かない強弱の付きすぎた写真になってしまいます。
逆に普通の室内で蛍光灯の元で撮影すると、今度は窓からの光や蛍光灯の明かりが多すぎるため光をコントロールできず、のっぺりとした面白みのない写真になってしまうのです。
写真撮影にて、光の届かない密室の中で、複数の光源を用意する理由はここにあります。
ところが、もう一つ照明を用意して撮影すれば万事解決かというと、そう簡単な話ではありません。
上の写真は2つの光源によって照らしながら撮影した写真*2
まず、光源が2つあるにも関わらず影の部分が黒く潰れて見えなくなっています。
2つの光源を2つとも画面左手前に置いているため2つあるメリットを活かせておりません。
(かげのメリハリを活かしたドラマティックな写真にする場合には、ライトは一つでよかったでしょう)
しかしそれ以上に問題なのは、この模型写真に影が2つあることです。
点光源が2つあることから伸びるビルの影も2方向に伸びています。
これは太陽しか光源のない現実世界では起こり得ないシチュエーションであり、模型写真としてはあまり好ましいものではありません。
そう、影の明るさを調整するために2種類の光源を用意すると、太陽が2つあるかのような奇妙な影が生じてしまうのです。
ここにきてライティングに更にもう一つの課題が課せられることとなります。
- 立体感のあるメリハリのきいた影がほしい
- けれども影の部分も適度に明るくあって欲しい
- けれども影は一方向にだけ伸びていてほしい
さあ、積み重なったこの更なるわがままをどのようにして解決するのか?
そこで登場するのがレフ板やディフューザー、即ち間接光や面光源です。
プロが使うのは上のような機材ですね。
サブの光源からでた光をレフ板(真っ白な板。スチレンボードなど)に反射させてから模型に当てたり、ディフューザー(光を拡散させる半透明の幕。トレーシングペーパーなど)で散乱させてから模型に当てたりすることで自然な光を演出するのです。
これによって一方向に伸びる影と、建物の立体感を強調しつつ、デティールも表現できる適度な光量の陰を調整することができるようになるのです。
というわけで、模型写真の撮影に際して照明にこだわるのであれば、
- 強烈な光で模型の形を浮き立たせる点光源
- 柔らかな光で模型の影を和らげる面光源(or反射光)
- それ以外の太陽光や蛍光灯の光が入らない空間
の3つが重要なのです。
撮影室に2つの光源がある場合は、一つは壁に反射させて使う必要があります。
家庭で撮影する場合には、ニトリや無印良品でかったスポットライト(必ず同じ色の電球)を用意し、内1つはトレーシングペーパーをとおして拡散させたり、スチレンボードで反射させたりして光を和らげなければなりません。
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ちなみに、背景と同様ライティングに関してもPhotoshopによってあとから修正することが出来ます。
複数の光源が生む影を消すことは出来ませんが、影の濃さを濃くしたり薄くしたりすることはトーンカーブやレベル補正を使えばあとから変えることが出来ます。
ただし、後から明るく出来るからといって暗い場所で撮影するのだけは避けましょう。
写真とはレンズ内に入り込んだ光の量=情報量なので、薄暗い場所での撮影は確実に写真の質が落ちる要因となるからです。