建築学科ごっことは?

建築プレゼンシートを作る前に読んでおきたい、建築を表現するスキルが身につく良著9冊まとめ

一口に建築のプレゼンシートのを作るスキルと言っても、その内容は多岐にわたります。

  • 構想スキル:設計目的や特徴を整理し見極め、伝えたいことを明確にできる力
  • 表現スキル:伝えたいことを正確に伝えられる図面やダイアグラムを作る力
  • レイアウトスキル:つくった図面やダイアグラムを美しく論理的に配置できる力

大雑把に分けても、1枚のプレゼンボードを作るためには、この3つの力を建築学生は伸ばさなければなりません。

しかし、この3つを網羅するオールインワンな建築プレゼンの本はなかなかありません。
故に、自分にはどの力が不足しており、どの本を読めばその力が補えるのか、峻別せず目的意識がないまま本を読み漁っても効果は薄いでしょう。

今回は、一般書店やAmazonで学生でも容易に入手できる建築プレゼン本を目的別に整理し、どのようなスキルを身に着けたい学生ににおすすめの本なのかという点に注目しながら書評していきたいと思います。

構想スキルを身につける

プレゼンテーションとは単に見た目に美しい図面やパースを小奇麗に並べればいいというものではありません。
そこには明確な伝えたい内容・コンセプトがあるはずです。

そこで、建築家は設計を伝えるために、まず何を伝えたいのか?どう伝えるのか?考える必要があります。

の三冊は、実際に活躍する建築家を対象に、プレゼンの手法、コンペに応募する心得、人に何かを伝えるとはどういう行為なのか、等の質問を投げかける、インタビュー形式の書籍です。

 建築プレゼンの掟

建築プレゼンの掟は建築プレゼンを一種のコミュニケーションと捉え、7名の建築家と1人のデザイナー、そして2人の広告クリエイターから「建築プレゼンの掟」を聞くという内容です。

「建築プレゼンは、芸術のように作品そのものにだけ語らせるものではなく、さりとてビジネス的なセールストークに終止するものでもない」

という高橋氏の執筆思想の元、様々なクリエイターたちが自分の作品を人に伝える上で感じてきた壁や困難、そして彼らがその壁をどのようにして乗り越えてきたのかがまとめられています。

例えば、隈研吾へのインタビューでは、「まちの“中土間”」をコンセプトにした長岡シティホールコンペ案を例として取り上げ、プレゼンシートを作る上で何に気を使ったかを解説しています。
インタビュー冒頭では一次審査と二次審査におけるプレゼンの戦略性の違いについて解説されています。
プレゼンシートのみで判断される一次審査では、コンペ主催者の関心が「屋根付きの広場」にあることを見抜きインパクトの有る広場のパースを描くことに専念した事が語られています。

一方で市民への口頭プレゼンや質疑応答のある二次審査では、当日まで会場の設備や雰囲気がわからないことから、あえて原稿を用意せずプレゼンテーションする「会場の空気を翻訳する」ことの重要性について言及しています。
同じ建物を説明するのであっても、誰に喋るかによってその内容やプレゼン戦略を変えていることがよくわかります。 

他の方へのインタビューも同様であり、具体的な過去のコンペやプレゼンでとったプレゼン戦略を紹介した上で、更に世界のコンペ事情や学生へのアドバイスが語られています。

基本的には文章による解説が主となっています。
各図面やダイアグラムへの言及は最小限に留められており、それ故明日提出のプレゼンボードに効くような、即効性のあるノウハウはあまり多くありません。

しかし、本書を読めば、建築家が建物自体の設計や目に見える形のデザインと同じくらい、建物の魅力を伝えるためのプロセス目に見えない人と人のコミュニケーションのデザインを重視し、考察し、咀嚼しているかが分かることでしょう。

建築家が教える人生を変える驚異のプレゼン

エクスナレッジムックから出版される「建築家が教える驚異のプレゼン」も似たような構成・編集の本と言えます。
ただし、「建築プレゼンの掟」が文字通り“掟”、つまりプレゼンテーションというコミュニケーションの本質に迫る内容であったことに対し、こちらの本では模型作りや設計プロセス、スケッチの描き方なども含めた幅広い分野を対象としてまとめられています。

最終的にクライアントに見せるスライドやブックレットが多めに取り上げられていた「建築プレゼンの掟」に対し、スタディ模型や打ち合わせのメモ、プレゼンの練習方法などプレゼンが形になるまでのプロセスにより重きが置かれているような印象も強いです。
そのため、建築家の仕事場を見学するようなワクワク感のある書籍といえるかもしれません。

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建築家が教える人生を帰る驚異のプレゼン(Amazonより)

本書もまた、今日読んで明日使えるタイプの解説書ではありません。
一読してすべての内容が即座に吸収され、設計の糧になるような本でもありません。

しかし、あなたが自分の建築やそのプレゼンテーションに悩み始めた時、再び本書を手に取り、ひとりひとりの建築家が語る言葉に耳を傾けてみましょう。
かつて読んだときにはなんでもないように感じられた1文が、意味が理解できなかった1文が、今あなたが直面している苦悩や煩悶を打破してくれる瞬間がきっとやってくるでしょう。

 コンペに勝つ!

そして、コンペでのプレゼンテーションに特化して語られたのがこの「コンペに勝つ!」です。

第40回セントラル硝子国際建築設計競技の記念講演・ディスカッションの記録集であり、上記2冊に輪をかけて文章量が多いのが特徴です。
また、審査員の立場から見た良い提案・悪い提案に関する言及があることや、「コンペに勝つ!」というタイトルでありながら、殆どの建築家がコンペの失敗談やコンペ勝利後の苦悩、勝ち負けに拘泥しないコンペのあり方を中心に語っている点が非常に面白い本言えます。

例えば山本理顕氏はコンペに勝つことそのものよりも、コンペ勝利後の責任と苦悩に注目しています。
実施設計まで終わり入札直前までこぎつけた「邑楽町役場庁舎コンペ」において、町長交代に伴い突然廃案になった経緯を取り上げ、建築家とコンペのあり方を問い直しています。
そのため山本氏の講演タイトルも「コンペに勝つ?」と語尾を上げた疑問形な物となっています。
(無論本書では、伊東豊雄氏の「TOYO ITO流コンペ必勝法」のように、コンペに勝つ具体的なノウハウも多数取り上げられています)

また、巻末付録として紹介された第一回から第四十回までのセントラル硝子国際建築設計の最優秀賞作品も興味深いものです。
CADもIllustratorもBIMも浸透していない時代の手描きプレゼンボードが持つ独特の雰囲気は、眺めているだけでも楽しくなってきます。

表現スキルを鍛える

伝えたい内容が決まった所で、それをどのようなグラフィックで伝えるかを考えなくてはなりません。

周辺状況と建物の関係を伝える敷地図兼平面図、建築の空間構成を伝える断面パース、ゾーニングや動線をわかりやすくつたえるためのダイアグラム、人々のアクテビティを示すためのスケッチ、具体的な内部の雰囲気を伝えるための内観パースetc…
建築プレゼンに使われる表現手法は多岐にわたり、近年ますますそれぞれに求められる表現技術レベルが上がっています。

そこで、IllustratorやPhotoshopを中心に、図面を見やすく加工したり、ダイアグラムを作ったり、パースを合成したりする際に有用な参考書籍が必要になってきます。
具体的には、

などが挙げられます。

 建築とインテリアのためのPhotoshop+Illustratorテクニック

「 建築とインテリアのためのPhotoshop+Illustratorテクニック」は、タイトル通り建築をグラフィカルに伝える上で欠かせないツールであるPhotoshopとIllustratorのノウハウ本です。

一般的なPhotoshop・Illustrator指南書では、建築学科には使い道のない機能やテクニックが挙げられていることも多いですが、その点建築・インテリアに特化した本書は無駄がありません。

内容は

  1. 図面
  2. 建築写真
  3. 建築パース
  4. プレゼンシート

の4つに分かれており、1.図面と4.プレゼンシートでは主にIllustratorの、2.建築写真と3.建築パースでは主にPhotoshopの使い方が解説されています。

CADで書き出した図面をIllustratorで扱う方法や、建物の(模型)写真と背景・添景を合成する方法など、脱初心者を目指す建築学科生の痒いところに手が届く内容といえます。

あまり高度な加工方法には触れられていないため、一通りIllustratorもPhotoshopも使える人には物足りないかもしれません。

そんな方には、以下の本をおすすめします。

最高の建築パースを描く方法

 「最高の建築パースを描く方法」は3DCGソフトを使うこと無く、Photoshopのみでパースを描く方法を解説した書籍です。

また、Photoshopと似たような性能を持つフリーソフトGIMPでのパース作成の方法も解説されています。

もちろんそれ以前の基本である、「パースとは何か?」「消失点とは何か?「煽りと俯瞰とは何か?」「リアルな陰影の付け方とは?」といったパースの前提知識も解説されています。

 既存の風景写真の切り貼りで、一つのパースを完成させるスキルは、時間を掛けたくないエスキスやコンペのちょっとした内観パースの作成の他、都市計画・まちづくり系の課題でのコラージュ風景写真を作る時に大きな力を発揮します。

また、残念ながらCADソフトやBIMソフトとの連携について言及されていないため、3DCGパースの質を更に上げるノウハウなどはありませんが、その前提知識や基礎スキルの修得としては申し分ない情報量と言えるでしょう。

 住宅プレゼンテーション・テクニック

一方、図面データや3DCGのデータをイラスト風・アナログ風に仕上げる手法がたくさん紹介されているのが「住宅プレゼンテーション・テクニック」です。

  • 手描き平面図×Photoshop着彩
  • CAD平面図×Illustrator着彩×Photoshop仕上げ
  • 手描き立面図×Illustrator着彩×手描き仕上げ
  • CAD立面図×Illustrator着彩
  • CAD外観パース×Illustrator着彩×手描き仕上げ
  • CAD外観パース×Illustrator着彩
  • CAD内観パース×Illustrator着彩
  • CAD内観パース×Photoshop着彩×手描き仕上げ

という8つの作例を元に、 手描き・2DCAD・3DCADで出力した図面やパースの線画に対し、アナログ画材・Illustrator・Photoshopをどのように使い分けるかが解説されています。(CADの解説は無し)

多くの3DCADツールのレンダリングはフォトリアルなパースを作ることに特化しています。

まるで写真で取ってきたかのようなリアルなパースもかっこいいですが、時には温かみのある手描き風パースに仕上げたいこともあるかと思います。

読み手の想像力を刺激するようなパースを描きたい方の大きな力となるでしょう。

また、8つの作例とは別に、よく使うIllustrator・Photoshopの機能のまとめや手描きで着彩する際のコツに対してもかなりのページを割いており、初心者にも学習しやすい良い編集がなされています。

 スケッチ感覚でパースが描ける本

しかし、これらのデジタルなスキルの真価を発揮するためには完全アナログな手書きスケッチの能力がどうしても必要になってきます。

また、学生コンペなどではまるで絵本のようなふわっとしたパースが描かれていることも多く、アナログ的なセンスが求められる機会はプレゼンに限らず建築学科には多数存在します。

「スケッチ感覚でパースが描ける本」は最終的なプレゼン資料やポートフォリオに載せるようなハイクオリティな手描きパースを描く方法は解説されていません。

それよりも、アクソメ図や一点透視図法など、スケッチ初心者でも比較的デッサンが狂いにくいパースの描き方に特化した、まさに建築スケッチの入門書です。

手描きパースの解説書は、往々にして線数の多い、またアナログ画材独特のにじみや重ね塗りを活かした高度なスケッチや、それとは逆に線数も少なく塗りもあっさりとした非常にラフなスケッチばかりが載っていることが多いです。

これらは画集として眺めるにはいいかもしれませんが、手描き初心者が真似するには難しい取っ掛かりのない作例であるともいえます。

本書はしっかりとした、それでいて最小限な線によって空間を表現しており、どこにどのような線を引けば説得力のあるスケッチになるかがつかみやすい画風であると感じています。

(ま、このへんは好みですが)

レイアウトスキルを鍛える

 さて、伝えたい内容も決まり、それを表現するスキルが身についたとしても完璧とはいえません。
タイトルやパースや図面やダイアグラムを紙面内のどの位置にどのように配置するかによって、美しさやかっこよさのみならず、伝わりやすさや理解のしやすさにも大きく差が出てきます。

特に建築プレゼンシートのレイアウトの難易度を高めているのが、図面の存在です。
建築図面は1/100や1/2000のように正確な縮尺で記載することが暗黙のルールとなっており、これがプレゼンボードやポートフォリオづくりの大きな制約となっています。

また、一般的なビジネスのプレゼン資料よりグラフィカルな画像素材が多く、かつ雑誌のレイアウトに比べて図面や地図・グラフと行った資料的画像素材が多い点も特徴と言えるでしょう。
そのため、一般的なエディトリアルデザインの書籍だけでは対応が難しく、建築のプレゼンボード・ポートフォリオのレイアウトに特化した勉強が必要になってきます。

図解建築プレゼンのグラフィックデザイン

作成した図面やパースは、ただ並べるだけでは伝わらない。

しかし、どの要素を紙面内のどこに並べるのが効果的か?というレイアウトに関する言説は、建築学科では極めて乏しい。

自分のプレゼンボードがわかりにくいことは分かる。

しかしどう工夫すればわかりやすいボードになるのかがわからない。

それが建築学科の現状だと思います。

「図解建築プレゼンのグラフィックデザイン」はプレゼンボード内に配置する図面やパースや文章を、

  • 『視覚的効果軸(フラット⇔ヒエラルキー)』
  • 『意味効果軸(ロジック⇔センシビリティ)』

という2つの軸を元に分類し、それぞれを紙面内のどこに配置するのが最も効果的なのか、ロジカルに解説した唯一にして最高の一冊です。

しかも本書は、単純にレイアウト理論を紹介するだけでも、過去にコンペに提出したグラフィックをただ載せるだけでもありません。

それらの理論が具体的にどのように運用され、どのような影響をプレゼンシートに与えるのかまで詳細に語られた、極めて実践的な内容となっています。

『図解』とタイトルに題するだけあって、豊富な資料や作品事例をもとに解説されており、その引用源は建築コンペのプレゼンシートはもちろん広告グラフィックから有名絵画に至るまで幅広く参照しており、本書で書かれている内容が小手先のテクニックだけではなくあらゆるグラフィックデザインに共通する普遍な理論であることが伺えます。

大学では教えてくれなかった、レイアウトのロジックを、余白の取り方、色のバランス、フォントの選び方に至るまで詳細に語られた一冊です。

 本書を読めば、自分がこれまでに作ってきたプレゼンボードがいかに感覚的な産物だったのか、そしてプロの世界での建築プレゼンのグラフィックというものが、いかに緻密な論理の元に構成されているものだったのかが、よく分かることでしょう。

だれでもプレゼンシート+ポートフォリオをデザインできる本 

一方で、建築学科のプレゼンにはスピードを求められるシーンも数多く存在します。

毎週、時には3日に一回と言うような目の回る頻度で草案やエスキスに追われる建築学科生にとって、自分のアイデアを素早く紙面にまとめ、相手に説明するスキルは、時間をかけてよりクオリティの高いプレゼンシートを作る技術と同じくらい大切なものです。

しかし多くの建築学科生はこの草案にてアイデアをキチンと伝えるための工夫の重要性をかなり軽視しています。

草案の度に手描きのスケッチや小さなスタディ模型だけでなく、教師に渡す印刷物を用意して行くことは重要です。

それはアイデアを正確に伝えるためだけでなく、自分の考えを定期的にまとめるためにも、そして自分の思考のプロセスを相手に示すためにも必要な作業です。

また、草案の度にハンドアウトを教授に渡すことで、完全実力主義・成果物主義の建築学科で、努力による評価をしてもらえる可能性がでてくるというおまけも付いてきます。

しかし、大量の情報をコンスタントに編集し、紙面にまとめ、印刷するためにはいくらかの工夫が必要です。

毎週のように襲い来るエスキス地獄のなかで、毎回レベルの高い企画書を提供するためには、おしゃれではないし個性もないけど、豊富で汎用性が高いデザインテンプレートが必須になってきます。

 「だれでもプレゼンシート+ポートフォリオをデザインできる本」は、そんな洗練されてはいないけど、わかりやすさとスピード感が求められる資料作成を手助けする一冊です。

(逆に言うと、コンペで提出する大判サイズのプレゼンシートや就活に使うハイクオリティなポートフォリオにはあまり対応していません。)

  • 第一章では資料作成のいい例と悪い例を比較し、ダサいプレゼンシートのどこをどう改良すれば伝わるデザインになるのかが解説されています。
  • 第二章ではプレゼン資料を作成する上での配色やマージン、文字スタイルに関する基礎知識を紹介しています。
  • 第三章ではプレゼンシートの見本が、第四章ではテンプレートが紹介されており、、誰でも手軽に資料作成が出来るよう工夫されている恒星となっています。

付属のCDにはテンプレートのaiデータが入っているため、Illustratorさえ持っていれば、よりスピーディに大量の資料が作成できます。

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だれでもプレゼンシート+ポートフォリオをデザインできる本(Amazonより)

毎回のエスキスの密度を上げたいという方にとって、細かい理屈抜きに資料を作成できる本書は大きな武器となるはずです。

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