2020年4月現在、新型コロナウィルスの流行により、多くの大学が授業開始を見合わせており、一部の学生は自宅待機を余儀なくされています。
そのため、期待に胸膨らませて入学したにもかかわらず、意図せず延長された春休みを持て余している一年生や、ようやく設計課題が本格化するはずだったのに出鼻をくじかれた2年生の方も、多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、卒業式・入学式中止や新学期開始時期を遅らせる大学が続出している。世界的に見ても、ハーバード大学やMITなどオンライン講義に移行する大学が続出。日本でも、たとえば東京大学は「対面での講義は最小限とし、オンライン化を奨励し推奨する」と発表。それ以外にも、当面の間オンライン授業とすることを発表している大学が多いようだ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiakiko/20200327-00169828/

そこでこの記事では、学生が独学で建築を学ぶ方法を整理し、そのトレーニング法や関連書籍を紹介していきたいと思います。
こんな情勢なので、
・全くの建築初学者である一年生が、
・Amazonで買える本とネットを教材に、
・一部有料ソフトの利用も視野に入れつつ、
・建築設計や建築デザインを独力で学ぶために、自宅で出来る勉強法やトレーニングを、近日中に記事としてまとめたいと思います。
— 建築学科ごっこ (@gakkagokko) April 1, 2020
むろん、従来の大学教育に取って代わるような、優れた勉強法とは言えないものになると思います(教員指導の元、適切な手順で学ぶのは大切なことです)。
ただまぁ、「建築学科ごっこ」くらいにはなると思います。
公開まで、どうぞ気長にお待ちください。— 建築学科ごっこ (@gakkagokko) April 1, 2020
なお、執筆にあたっては、
「もし大学に全く頼らず、Amazonで買える書籍とネットで建築設計を学ぶなら」
という、より過酷な条件を想定しました。
これは、建築設計を学ぶ上で
- どこまでが独学で学べる範囲なのか
- どこからが大学に頼るべき範囲なのか
という点を明らかにすることで、より効率的で建設的な建築教育のあり方を考察できると考えたためです。
建築設計を独学で学ぶ上で、いちばん重要なこと
建築設計を学ぶ上で、いや、クリエイティブな分野で成長する上で、もっとも大切なことがあります。
それは、
「作品を作り発表することこそ、正義」
というマインドセットです。
なぜそんな当たり前のことをいうか。
それは、多くの学生が「知識の吸収やスキルの向上に逃げ、作品を作らなくなってしまう」からです。
まず創作における上達のコツは
- 作品を作る
- 作品を発表する
- 技術を身につける
- 1に戻る
のサイクルにあります。
しかし、独学で何かを学んでいると、「3.弱点や強みを補う訓練」ばかりに時間を費やしがちになり、代わりに「1.作品を作る」や「2.作品を発表する」という工程がおろそかになることが非常によくあります。
例えば2020年の新型コロナウィルス騒動において、ツイッターでは
「建築学生も自宅で勉強に励もう」
という言説が多く見られました。
しかし、そこで語られる「勉強」とは、いずれも建築書の読書やソフトウェアの学習ばかりで、「創作活動」を奨励する発言はごく一部でした(管見のかぎりですが……)。
これは個人的に、非常に残念な光景でした。
コロナで自粛だからと言って、読書やPCの勉強ばかり励むのはやめろ。
クリエイターだろ。
作品だ、作品を作れ。
創作から逃げるな。#自戒— 建築学科ごっこ (@gakkagokko) April 5, 2020
作ってください。
作って作って作って、作りまくって、
もう創作はこりごりだと逃げ出して、それでも逃げ出した先でなにか作らずにはいれなくて、
そうやってようやく自分の持てる知識と技術を捧げた「全力を尽くした作品」にたどり着いて、
それでも翌朝改めて眺めるとやっぱり満足できない部分を見つけてしまい、やっぱり作り続ける。
クリエイティブな業界とは、そういう人種の世界です。
「作る」という行為なくして、クリエイターとしての成長はあり得ません。
「今自分は、作ることから逃げていないか」という点に関してだけは、絶対に見失わないように警戒してください。
作るのは、なにも建築である必要はありません。
文章でもイラストでも音楽でも、写真でもDIYでもWebページでもゲームアプリでも構いません。
なぜなら、あなたが建築学科に所属していることと、建築設計が得意であることは、必ずしもイコールである必要はないからです。
もしもっと楽しい創作や活動が見つかれば、遠慮無くそっちの世界に飛び込めばいいのです。
もしあなたに「創作活動全般に適性がなかった」としても、それを把握できた段階で大学に来た価値は十分にあるはずです。
作るのは、最初から秀作である必要はありません。
模倣でも模写でもパクリでも習作でも駄作でも自己満足でも構いません。
とにかく、「今の自分の持てる力をたたき込んだ作品」を作ってください。
10の力しかない時に作った、10の作品。
100の力を持つ時に作った、20の作品。
作品的な価値は後者の方が上でも、あなたの人生を支えてくれるのは前者の作品だからです。
独学で設計を学ぶ5つの壁
もちろん「作品を作りまくればすべてが解決する」ほど、クリエイティブな業界は甘くはありません。
建築設計を学ぶ上では、どれほど創作意欲が高くとも、それだけでは超えがたい壁があるからです。
例えば、以下の5つがその代表でしょう。
- 目標を設定できない
- 設計の進め方がわからない
- 設計力を育てる方法がわからない
- 表現力の身につけ方がわからない
- フィードバックを受けられない
よって建築設計を独学で学ぶためのルートマップというのは、以下の5段階のようなものと設定できます。
レベル0:適切な目標を設定できない
そもそも作りたい建築のアイデアがない。目指すべきゴールや目標がほしい。レベル1:基礎的な設計・製図の能力が無い
作りたい建築のアイデアはあるが、それを具体的な形に落とし込む手順がわからない。レベル2:設計力を育てる方法がわからない
具体的な造形に導くことは出来るが、その完成度を高めるために何をすればいいかわからない
レベル3:表現力の身につけ方がわからない
建築設計はある程度できるが、わかりやすく魅力的に伝える表現力がない。—–(独学の限界)—–
レベル4:フィードバックを受けられない
設計も表現も自信があるので、もっとたくさんの人に意見をもらいたい
この記事では、おもにレベル0-3までの人に対する施策を中心に紹介しつつ、レベル3への橋渡しの方法を考えていきたいと思います。
1.適切な目標を設定できない
建築設計を独学で学ぶ上で一番最初にぶつかる壁は、「これを作りなさい」と導いてくれる人が不在な点だといえるでしょう。
初学者のうちは、「なんでも自由につくっていいよ」と放り出されるよりも、ある程度「あれをやれ」「これをしろ」と指示されたほうが学習効率がいいことは、みなさんも夏休みの自由研究や読書感想文で身にしみて感じていることだと思います。
というわけで、新入生が建築設計を独学するためにまずに必要なのは「教授に変わって設計課題を設定してくれる書籍」だと思います。
具体的には、
- 建築の種類・目的(住宅・カフェ・美術館など)
- 敷地条件(市街地・郊外・森の中、など。具体的な住所が指定されることも)
- 設計規模(敷地面積・建物の高さ・必要な部屋数など)
- ターゲット像(ティーンエイジャー・30代のビジネスマン・高齢者など)
などの設計条件が具体的に提示されており、さらにその設計の模範解答となる設計案が付録されているような書籍が理想です。
さらにいえば、眺めているだけで自然と
「もし私がこんな条件の依頼を受けたなら、どういう設計を提案するだろうか」
とアイデアを巡らせてしまう書籍であれば、独学のお供として完璧と言えるでしょう。
(『住宅設計演習1000本ノック』みたいな書籍、需要あると思うんですけど、なぜか出ないんですよね……。)
以下の記事では、そんな「建築設計の練習帳」となるような書籍を、難易度順に紹介していきたいと思います。

対象者
- まだ一度も、「設計課題」というのをやったことがない。
- 一般的な大学で出題されている「設計課題」の内容を知りたい
- 「設計製図問題集」のようなものがほしい
という学生。
やるべきこと
- とにかく「まずは下手でも作る」ことを意識する
- 建築学科における「課題」と、それに対する「作品」の事例を集める
- ↑を見ながら、作りたいものの想像力をふくらませる
2.設計の進め方がわからない
次の壁として考えられるのが、
「作りたいものはできた。でも、設計とはなにから初めてどんな風に進めればいいかわからない!」
という悩みです。
仮にここに一つの敷地が有り、そこに住宅を設計したいと考えたとしましょう。
この時、まずはじめに考えるべきは建物の「どの部分」なのでしょうか?
方角でしょうか?間取りでしょうか?それとも外観の形?
あるいは間取りを決めようとしても、具体的に敷地のどの部分にキッチンを起き、どこに玄関を設けるのが定石なのでしょうか?
こうした思考の過程というのは、必ずしも一つの「正解」が定まっているわけでは有りません。
それでも、「一つの作品が完成するまでの過程」を知っておくことは、建築に限らずなにかCreativeなジャンルを初めて学ぶ上では、非常に重要になってきます。
そのため、例えばイラスト業界では、「ある一枚の絵が、どのような手順で描かれたか」を解説する書籍が山のようにあります。


同じように、
- 先輩たちは設計課題に対し、まずどのようにアプローチをして、いつまでにどんな意思決定をしているのか?
- プロの建築家は、家一件を建てるにあたって、どのような手順でプロジェクトに取り組むのか?
といった、設計の「メイキング過程」を知ることができれば、あなたの設計課題の心強い味方となることは間違い有りません。
以下の記事では、そんな「建築設計のメイキング」となるような書籍を、学生レベルからプロの建築家のものまで、幅広く紹介しています。

対象者
- 作ってみたい建築のイメージはあるけど、ペンを握ると手が止まってしまう
- 設計とはまずどこから考え始めればいいのかわからない
- プロの建築家は、どのように空間の形を決定しているのか知りたい
やるべきこと
- 先輩やプロの建築家の「設計の手順」を学ぶ
- ↑の手順を見ながら、自分も一作品なにか建築設計を作ってみる。
3.設計力を育てる方法がわからない
さて、1では設計学習の「問題」を、2では設計の「解き方」を、それぞれ学ぶことが出来る書籍を紹介してきました。
上記の書籍や方法を使えば、クオリティにさえ拘らなければ「建築作品」を作ることは可能になることでしょう。
しかし、初めて取り組んだ設計課題の作品が満足の行く素晴らしい出来栄えになることはまず有りえません。
大抵の場合、
- 機能はめちゃくちゃ
- 外観はちぐはぐ
- 図面もスケッチも下手くそ
- そのクセ、費やした時間だけは膨大なものに……
という、非常に苦々しいものになったことでしょう。
しかしそれは、あなたに設計の才能が無いからや、設計の手順を間違っているからではありません。
今のあなたは、いうなれば最低限のルールとバットの振り方だけ教わって野球の試合にでたような状態です。
基礎体力も筋肉もついていない初心者がいきなりそんなことをしても、まともなゲームにならないのは日を見るより明らかです。
初めての作品作りに挑戦し、しかし作りたいものを理想通りに作れなかったあなたに必要なのは、「設計力を鍛えるための反復練習・基礎トレーニング」です。
具体的には、
- 図面模写 図面トレス
- 即日設計
- スケッチ
という3つのトレーニングを行うことで、設計に対する体得的な判断力・センス・ひらめきを鍛えていくことが出来るのです。

対象者
- 時間をかけて設計しても、それに見合うクオリティの建築にならない
- 凡庸な設計しか作れない。もっと複雑で魅力的な設計に深化させたい。
- アイデアには自身があるのだけれど、それをうまく形にできない
やるべきこと
- 図面模写 図面トレス
- 即日設計
- スケッチ
4.表現力の身につけ方がわからない
どれほど作りたい作品があっても技術が伴っていなければ意味がありません。
特に建築学科では、Illustrator・Photoshop・InDesign・Jw_cad・AutoCAD・SketchUp・Rhinoceros・ARCHICAD・Revitなど、覚えたほうが有利なソフトや技術が数多く存在します。
こうしたデジタル技術は、どこでどうやってどの順番で学ぶべきなのでしょうか?
この項では、そうした表現技術のロードマップを整理することを試みたいと思います。
▼学習の全体像

▼個別解説記事
- 建築学生のための、Illustratorの学び方
- 建築学生のための、Photoshopの学び方
- 建築学生のための、InDesignの学び方
- 建築学生のための、2DCADの学び方
- 建築学生のための、3DCAD・BIMソフトの学び方
対象者
- 手描きではなく、PCで製図してみたい
- かっこいいパースや建築模型を作りたい
- プレゼンボードを作るために必要なソフトを知りたい
やるべきこと
- どんなスキル・ソフトを学べば、どんな表現ができるようになるかを学ぶ
- チュートリアルとなる書籍やサイトを集め、繰り返し練習する
- 過去に作った作品の図面や模型やパースに、学んだ技術を活かしてレベルアップさせる
5.フィードバックを受けられない
(執筆中)
対象者
- 自分の設計に自身がある。もっと高みを目指したい
- 大学の枠にとらわれず、もっと多くの人の批評を受けたい
- 建築業界の人と作品を通じて関わりたい。刺激を受けたい
やるべきこと
- 作品・スキル・実績を、だれでもオンラインで手軽にみれる状態で公開する(SNS・ブログ・ポートフォリオサイト等)
- 建築学生や業界人が集まるイベント・サークル・勉強会に積極的に参加する
【執筆中】