設計課題が始まると、学ばなければならない技術、身につけたい表現スキルがとても多いことに気が付きます。
この記事では、プレゼンボードやポートフォリオを作るにあたって必要となる図面やパースを作るために、どんなソフトやスキルを身につければいいのか、そのロードマップを作ってみました。
全体像
建築プレゼンスキル8種
そもそも建築学科に求められる「プレゼンスキル」とは、どのようなものなのでしょうか?
この記事では、建築プレゼンのスキルを下記の8スキルに分類します。
- 手描きスケッチ:紙とペンを使ったアナログな描写
- 写真撮影:模型写真や敷地写真の撮影
- 模型作成:スタディ模型や敷地模型も含む、建築模型の作成
- 2DCAD:図面を作成するソフト
- 3DCADなど:BIMや3次元CAD、3DCGによるモデリング
- Illustrator:Adobe社を代表するベクターデータ編集ソフト
- Photoshop:Adobeを代表するラスターデータ編集ソフト
- InDesign:Adobe社を代表するレイアウトソフト
設計コンペのプレゼンボードや就活に使うポートフォリオ作成に必要なスキルは、概ねこの8種だと思います。
これらを一通り学べば、建築学科における表現技術のすべてを手に入れたといっても過言ではないはずです。
では、それぞれの内容を一つ一つ見ていきましょう。
スキル1:スケッチ・エスキススキル
テクノロジーが発達した現代においても、紙とペンで図面をスケッチすることの重要性は失われていません。
手描きでササッと図面が引けることは、建築設計の瞬発力を鍛える上で非常に重要となります。
というわけで、建築学生に求められる1つ目の能力は、「頭の中に空間や造形のイメージを膨らませ、それを紙の上に落とし込める能力」であるスケッチ・エスキス能力です。
エスキスという言葉の意味については、下記の記事を御覧ください。
建築のエスキースとはなんのこと?「エスキス」がもつ3つの意味をシチュエーション別に詳細解説エスキスの力を身につけるためのノウハウや指南書については、下記の記事を御覧ください。
「設計力」を鍛えるためのトレーニングメソッド エスキスの手順・設計課題の進め方が解説された、建築学生向け書籍まとめスキル2:写真撮影スキル
建築学生に求められる2つ目の能力は、「街並みや建築物を撮影したり、模型写真を物撮りしたりできる能力」です。
近年ではスマホに内蔵されたカメラの成長も凄まじく、かなり高解像度の撮影が可能なものも増えてきました。
しかし、より高品質の模型写真を撮影したり、より豊かなCGパースを作れるようになるためには、
- レンズの違い(広角・望遠など)
- 露出やシャッタースピードの概念
- 構図や照明のセオリー
などといった、一眼レフを手にたくさんの写真を取らなければ身につけられないような知識が必須となります。
スキル3:模型製作スキル
3つ目に紹介するのは、建築模型を作る能力です。
質のいい模型を作れることは、大学での課題の評価を高める上でも重要な上に、模型製作のバイトとして採用されたり、卒業後に下っ端設計者として働くことになった際、上司や所長に評価されやすいポイントでもあります。
一方で模型製作は、建築学生の徹夜・長時間労働の諸悪の根源とも言える作業でもあります。
なるべく短時間・省エネルギーで要求を満たす模型を作れることは、ときにハイクオリティな模型を作れる以上の重要スキルとなるでしょう。
スキル4:CADソフトスキル
4つ目に取り上げるのは「CADソフト」のスキルです。
CADとは、平たく言えば「図面に特化した作図ソフト」の総称であり、建築物の設計者である建築家にとってはなくてはならないデジタルスキルの1つとなっています。
昔はエスキス段階から清書段階まで手書きが主流だった製図ですが、PCによる製図ソフト(CADソフト)が登場してからは、もっぱらデジタルでの製図がスタンダードになりました。
CADソフトは、建築学科で学ぶソフトウェアのうち、最も重要なものの一つでしょう。
CADソフトの学習方法については、下記の記事を御覧ください。
建築学生のための、2DCADの学び方スキル5:3DCG・BIMソフトスキル
CADソフトと並んで、いや、近年ではそれ以上に注目を集めているのが、3DCADやBIMと呼ばれるソフトウェア、すなわち建築用の3DCGを操れるスキルです。
近年ではスマホゲームやVR市場も成熟を極め、3Dモデリングのキャラクターや背景を見ない日は無いという人もいるほど日常に馴染む存在となった3DCGですが、その存在感は建築業界でも大きな物となっています。
とくに構造・環境・施工のシミュレーション機能を担った「BIM」と呼ばれる設計技術は高い注目を集めており、大手ゼネコンや大規模設計事務所への入社を考えているのであれば、習得は必須と言えるほど重要な物となっています。
3DCGやBIMの学び方については、下記の記事を御覧ください。
建築学生のための、3DCAD・BIMソフトの学び方スキル6〜8:Illustrator・Photoshop・InDesignスキル
最期に紹介するのは、「Adobeソフト」とよばれる、グラフィックソフトに関する能力です。
3つのソフトはそれぞれイラストやロゴマークを作ったり、図面・模型写真を加工したり、プレゼンボードや小冊子を作ったりするのに使う専用ソフトです。
それぞれの違いや学び方も、個別記事にまとめております。
建築学生のための、Illustratorの学び方 建築学生のための、Photoshopの学び方 建築学生のための、InDesignの学び方各スキルの学習ロードマップ
スキルを学ぶ順番と相性
ここで問題なのは、それぞれのスキルは独立した能力ではなく、互いに連携し合う関係にあるということです。
例えば、あなたが美しくわかりやすい模型を作るスキルを身に着けたとします。
しかしコンペや就活で建築のプレゼンテーションを行う時、模型を直接見せることはできず、大抵の場合は模型写真によってあいてに建築を伝えなければなりません。
その際、模型写真を撮影するスキルや撮影した画像を補正・合成スキルを持っていなければ、掲載する模型写真の魅力は半減してしまうでしょう。
あるいは模型作成作業においても、CADソフトによって平面図や立面図を簡単に作成・複製できるようになれば、アナログ・手作業のみでのときより遥かにすばやく正確な模型を楽に作れるようになります。
つまり、模型作成というスキル単品で所有しているよりも、
「CADソフト・写真撮影・写真加工(Photoshop)・レイアウト(InDesign)」
といった関連スキルと一緒に学ぶほうが、スキルの掛け算が起こり、何倍も効果的になるということです。
そしてこれは言い換えれば、どのスキルとどのスキルが相乗効果の互いにスキルなのかを把握しておかないと、場当たり的な学習になってしまうという事です。
そこで、前述の8種のスキルを、互いの連携や関連性も含めて表現した図が、下のロードマップです。
必ずしも下のスキルを身に着けなければ上の技術を身に着けられないということではありませんが、下にあるスキルほど表現の基礎技術ということになります。
以上の図をもとに、プレゼンスキルを身につけるためにはどのような技術が必要なのかを紹介したいと思います。
目的①:かっこいい図面をつくりたい!
図面による表現は、建築学科における最も基本となる表現技術です。
そんな図面の作成スキルは
図面作成に必要な3つのスキル
- スキル1:エスキス力
- スキル4:CADソフトによる作図
- スキル5:BIMソフトによる作図
- スキル7:Photoshopによる着色・加工
などの能力が求められます。
特に学生レベルで差が付きやすいのは、図面が完成したあとにその図面の床を塗ったり、木や人を書き加えたりすることで、図面に活気を与え、直感的にわかりやすくする加工スキルです。
こうした図面の加工・調整作業には、図面を作図するソフトに加えてAdobe社のPhotoshop(やIllustrator)といった加工ソフトが必要になります。
CADで作った平面図をPhotoshopで加工・着色・レンダリングする方法目的②:わかりやすいダイアグラム(解説図)を作りたい!
ダイアグラムとは、情報を整理し図版したものを意味する単語です。
建物がどのような敷地にあるのかを示す地図や、その土地の人口・気候を示すグラフなどの一般的な図版だけでなく、空間の魅力を解説するために単純化された平面図は断面図など、その内容は多岐にわたります。
▼「そもそもダイアグラムってなに?」という方はこちら
建築ダイアグラムとは?有名設計事務所の事例でわかる建築図解の基礎知識作成にあたっては、まずアナログスケッチで大まかなイメージを掴んだあと、Illustratorによって描画するのが普通です。
状況によっては地図データを加工する専用ソフトや、立体的な3Dモデルを作成するソフトと連携させて作成します。
というわけで、必要なスキルは以下のようになります。
ArchiCADで作ったモデルをIllustratorで編集するための変換方法【3Dドキュメント機能】 【添景・人・樹木】建築図面・ダイアグラム作成に最適なフリーイラスト素材サイトまとめダイアグラムに必要なスキル
- スキル1:手描きスケッチで伝えたいことを整理する
- スキル6:Illustratorで清書する
- スキル5:複雑な図形ならば、地図データやモデリングソフトも利用する
目的③:手描きパースを描きたい!
手描きの(もしくは手描き風に作られた)建築のスケッチやパース図は、ときに本物そっくりなCGパース以上に見る人の心をつかみ、その建築の魅力を的確に伝えるツールとなります。
手描きでパースを作るもっとも一般的な手法としては、アナログで作成した建築パースやスケッチの線画を、スキャナーやカメラでデジタル化した後、Photoshopで加工してから載せるのが普通です。
「設計力」を鍛えるためのトレーニングメソッド手描きパースに必要なスキル
- スキル1:手描きでパースの線画を描く
- スキル7:線画スキャンして、Photoshopで抽出し、着色する
目的④:迫力のあるCGパースを作りたい!
手描きの温かみ在るパースに対し、迫力のあるフォトリアルなパースを作ることもあります。
写実的なパースを作る場合には、3次元CADやBIMで建築をモデリングし、レンダリングソフトによって光の具合を調整することによって作成できます。
CGパースに必要なスキル
- スキル1:手描きで完成形をイメージする
- スキル5:モデリングソフトでパースを組み上げる
- スキル7:Photoshopで、現実の写真と合成する
フォトリアルなパースを作るには、ひとまず3次元に対応したCADソフトやモデリングソフト、BIMを使えるようになるひつようがあります。
しかし、作成したCGパースは単品で使う以上に、設計敷地の背景写真や、人・樹木といった写真素材と合成し、雰囲気を整えることによってより魅力的なグラフィックになります。
Photoshopは、パースと写真を合成し自然になじませる際にもよく使われるソフトです。
目的⑤:模型写真を撮影・編集したい!
建築模型もまた、重要な空間表現の手法です。
模型写真に必要なスキル
- スキル3:模型を作る
- スキル2:模型写真を撮影する
- スキル7:Photoshopで敷地写真と合成したり、光の具合を調整する
模型は、実際に対面して見せるときに有効なのはもちろんですが、スタディ模型や最終的な模型写真をポートフォリオに載せることで、手描きパースやCGパースとは違った雰囲気を読み手に与えることができる意味でも重要です。
そして模型写真は、構図・照明・背景紙などに気を使うか否かで、撮影の仕上がりがぐっと変わってきます。
こうした撮影技術が無いと、どれほどクオリティの高い模型であっても安っぽく・素人臭く写ってしまいます。
構図・照明・背景で振り返る建築模型の写真撮影反省会またCGパースと同様、模型写真もPhotoshopによる加工は効果的です。
敷地の写真を背景として合成したり、あとから添景を書き加えることで、より活気ある模型写真にすることができるようになります。
目的⑥:画像や図面をプレゼンボード・ポートフォリオに編集したい!
ここまで解説してきた画像素材を、紙面上にバランスよくレイアウトするソフトがIllustratorとInDesignです。
プレボ・ポートフォリオに必要なスキル
- スキル6:Illustratorでレイアウトする
- スキル8:InDesignでレイアウトする
プレゼンボードのように、一枚~数枚程度の紙面上にレイアウトする際には、Illustratorで十分対応できます。
時間もスキルもないけどそれでもIllustratorでそれっぽく建築プレゼンをレイアウトする方法ただし、Illustratorはあくまでイラストや図を作成することに向いているソフトです。
画像や文章を限られた紙面上で配置・構成するには、InDesignが最適です。
特に、ポートフォリオのように複数ページにまたがる冊子でのレイアウトの際は、圧倒的にInDesignが便利です。
はじめての建築ポートフォリオ|作り方・制作の流れ・便利なサービスのまとめ 建築学生のためのInDesign入門講座(ポートフォリオ編)▼建築プレゼンのスキルを、動画で学ぶならこちら
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